Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

活動レポート
いま、形のある貢献を目指して
ー「高島獣害対策プロジェクト」活動レポートー

2021/2/6

執筆者:大津真実(言語文化研究科)

メンバー(50音順): 大谷洋介 特任講師(COデザインセンター)/岡田茉弓(言語文化研究科)/川口太郎(工学研究科)/島田広之(文学研究科)/田尾俊輔(言語文化研究科)/戸井誠人(工学研究科)/藤本森峰(工学研究科)

フィールド・プロジェクトから発展した高島獣害対策プロジェクト。コロナ禍での試行錯誤を綴ります。

1.すべてはここからはじまった

 Basicコース2年次(2019年秋)、私たちはプロジェクト型の授業「フィールド・プロジェクト(以下、FPとする)」で滋賀県高島市中野地区周辺の獣害問題について学びました。授業の最後には課題提供者に対して地域に根差した獣害解決方策を提案し、報告書を執筆しました。しかし、私を含め「このまま終わってよいのだろうか」と考えるメンバーが多数いたのでしょう。2020年3月、本授業の担当教員である大谷洋介先生の呼びかけをきっかけに、提案の実現を通した地域への貢献を目指す7人の履修生が結集しました。

2.活動方針の決定へ

 こうして、PBL(Project Based Learning)のやりっぱなし問題から出発したプロジェクト。私たちはまず、メンバーがどのような関心からプロジェクトに参加しているのか、個人の考えを共有し、FPでの議論を基に全体としての方向性を決定しました。
 FPでは当該地区を訪問し、獣害被害の状況や対策について説明を受けました。主要な対策として柵の設置があげられます。柵には行政による大型の電気柵と農家個人が設置する柵がありますが、訪問時にはこれらの柵が十分に機能しているとは言えず、各農家が応急処置的に対応している様子が確認されました。また、対策は基本的に個人レベルで行われており、集落単位での組織的な対策は実施されていないようでした。私たちはこの点に着目し、集落全体で協力して取り組むことが大切なのではないか、と考えるに至ったのです。

FPの様子:柵をめぐる現状について説明を受けている

FPの様子:柵をめぐる現状について説明を受けている

 こうした着眼点を持ちながら、実装に向けてFPで出されたアイデアを具体化し、どの対策を導入すべきか検討を行いました。アイデアを洗練させる段階では、獣害対策としての情報共有の体系化、「楽しさ」の創出、効果の明示化、地域が主体となる取り組みを重視しました。
 以上から、プロジェクトの全体方針を地域のコミュニティ形成を軸とした「地域課題に強い地域づくり」としました。また具体的な対策として、ドローンによる俯瞰画像を活用しながら体系的に情報を整理する「獣害掲示板」、集まる場や楽しさを提供する「イベントの開催」を提案することにしたのです。
 こうして着々と活動を進めてきた私たち。2020年6月、現地の協力者に私たちのアイデアを提案しました。協力者からは具体的な助言をもらい、地域の状況について情報を収集しました。この時、私たちの関心の中心にあったのは、いつ現地を訪問できるのかということです。地域住民は私たちの活動をどのように捉えているのか、コロナ禍でどのような活動が可能なのか。近々集会が開かれるということで、その機会にフィードバックをもらえることになりました。また、集会の場でこのプロジェクトと提案を住民に知ってもらうため、私たちの自己紹介も兼ねて「超域だより」を作成しました。

地域住民に配布した『超域だより』

地域住民に配布した『超域だより』

3.迫られた決断

 7月中旬、地域住民の声が届きました。
「新型コロナウイルス感染防止のため、来ないでほしい。」
 アイデア自体の印象は良かったようですが、活動が歓迎されているとは言い難い状況でした。コロナ禍での活動という点を意識して活動を進め、スケジュールの候補も複数用意していました。しかし、住民は高齢者が多く、感染の危険性を極めて深刻に捉えており、私たちの現状認識が甘かったことに気づかされました。
 かくなる上は、全面的な活動の見直しです。チーム内の議論をまとめると、次の3点に集約されます。すなわち、①活動をやめる(凍結案)、②コロナが落ち着くまではペースを落として活動を続ける(半凍結案)、③活動内容を変更し、可能な範囲で活動を続けていく(継続・代替案)。私たちは検討を重ね、このプロジェクトのピリオドを今年度末(2021年3月)までとして、継続・代替案を選択しました。

4.コロナ禍での活動

 現地を訪問せず、どのように活動を継続していこうか。議論の末に決定した方向性は大きく2つです。1つ目は、これまでの活動を成果物としてアウトプットすること、2つ目は住民に対して質問紙・インタビュー調査を行うことです。
 1つ目について、これまで行ってきた議論をコロナ禍の文脈で再検討し、アフターコロナの世界というコンペに参加しました。この時期、リーダーという立場にある私は、コロナ禍での活動、地域住民からのフィードバックによりプロジェクトに対するメンバーのモチベーションが下がっていることを感じながら、いったい何ができるものかと悩んでいました。同じことを考えていたメンバーがいて、何か一つ目標ができることで、それに向かって気持ちを再燃焼させていけるのではないか、という思いからコンペへの参加を提案してくれたのです。この時点でコンペの締切まで約1週間。かなりの時間的制約があり、準備に携われるメンバーが限られていたこと、またコンペへの参加がチーム全体としての総意ではなかったことから、コンペには有志で参加するという形をとりました。もう少し検討すれば、チーム全体としての成果物を出す方法もあったかもしれません。しかし、短期集中的に取り組んだことで参加メンバーの士気が高まり、ひとつのアウトプットが出せたことは有意義であったと考えています。また本コンペは建築系のコンペであったことから、表現力を鍛えるきっかけにもなり、文系学生はなかなか接触しないであろうCADと対面するなど、まさに超域的活動でもありました。
 2つ目について、質問紙・インタビュー調査は、コロナ禍で当初計画していた方針が受け入れられないという状況に対し、介入可能性を探ることを目的としています。これまでの活動では、地域住民とテレビ電話で話し合いの場を設けることも検討しましたが、現地のネットワーク環境の問題等から断念し、コミュニケーションが十分にとれていないのが実情でした。そのため、地域住民との関わり方を模索するなかで、質問紙・インタビュー調査という形で関係性を構築していきたいという思いもあったのです。チームとしての方針が決まると、住民に対する調査の準備を進め、協力者を通じて配布してもらいました。
 このように、コロナ禍においては複数の選択肢を持っていても計画通りに実行できず、方針や計画の変更を余儀なくされてきました。当初想定していた獣害掲示板のプロトタイプの作成、現地での実装は現状厳しく、ゆえに成果物として活動のアウトプットを出すことや、住民への調査へと方針を転換し、現在は質問紙の回収を行っています。

コンペに提出した作品:獣害ハザードマップ

5.活動を振り返って

 本プロジェクトはPBLのやりっぱなし問題を受けて、地域に「形のある貢献」をしたいという思いから生まれた活動です。プロジェクトはスタート地点からコロナの影響を受け、思うように地域に貢献できず、むしろ本活動が歓迎されていないという状況に立たされました。しかし、こうした困難に直面しながらも、その壁を乗り越えるべくチームで検討を重ね、現状で実現可能なことに着手し、活動を進めてきました。本プロジェクトは残り2か月で一区切りがつき、今年度は調査結果の分析までを目標としています。来年度以降はどのような形で継続してくのか、プロジェクト参加メンバーの増員も検討し、コロナ禍での活動方法を模索しながら、地域への貢献に結び付けていきたいです。

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