● 超イノベーション・コア「超域イノベーション総合」

社会を考え、動かすプロジェクト
―超域イノベーション総合―

授業担当:藤田喜久雄(工学研究科) 山崎吾郎(COデザインセンター)
大杉卓三 大谷洋介 渕上ゆかり 山村麻予(未来戦略機構)

Texted BY 2013年度生 花井舜平 高田一輝 篠塚友香子 鵜飼洋史 増田壮志
担当教員 山崎吾郎(COデザインセンター)

■4.おわりに

 2014年から実施している超域イノベーション総合は、今回が2回目の実施で、教員にとっては、まだまだ試行錯誤の途上にある実験的な科目です。この科目は、従来の大学院における授業とは、異なる点が少なくとも2つあるように思います。
 一つは、専門の異なる大学院生がチームを組んで、自主的に、約8ヶ月間の長期のプロジェクトに取り組むということ。今回京北のプロジェクトに挑んだ履修生たちの専門は、それぞれ工学(環境工学)、情報科学(人工知能、知識工学)、人間科学(現象学、精神医療)、薬学(分析化学)、生命科学(細胞生物学)でした。専門が異なると、何をもって課題とし、何をもって提案とするか、どういった手段・方法を効果的と考えるか、さらにはチーム・ビルディングの仕方に至るまで、多様な価値観がチーム内に持ち込まれます。別の言い方をすれば、議論の前提を必ずしも共有できない状況が生まれて、その分コミュニケーション・コストが高くなります。しかし一方で、新しい発想というのは、凝り固まった前提が疑われたときに生まれやすいものでもあります。こうした考えのもとに実施している授業では、教員は、「知識を授ける者」であるという以上に、教育の「場を作り出すこと」に注力しているといえるでしょう。授業内での役割は、むしろ脇役であり伴走者 ──ときにメンバーの一員── といってもよいかもしれません。プロジェクトが成果へと結実するように助言をしつつも、成功も失敗も含めて学生主導でありつづけることが重要であると考えているのです。ついつい横から口を挟みたくなるのが教員の性なのだとしたら、ひょっとすると教員にとってこの授業の一番の難しさは、黙って見守っていることなのかもしれません。
 もう一つの特徴は、このプロジェクトには現実の課題を抱えた当事者(課題提供者)が複数存在し、その当事者に対して、課題の再定義にまで遡って有効な提案をするという実践的なタスクが課されているということです。教育プログラムとして実施する以上、提案の採用・不採用がそのまま活動の評価(授業の成績)となるわけではありません。しかし、限られた期間、限られた予算のなかで提案を形にしなければならないということは、実社会におけるほとんどのプロジェクトがそうである以上、無視できない制約条件です。これは、長期に渡ってさまざまな形で協力してくださる課題提供者に対して、ただ一方的に教育の機会を提供してもらうのではなく、授業を通じて大学と社会の間に新しいつながりを作り出していくための仕組みでもあるのです。
 履修生たちは、リアルで雑然とした「しがらみ」に直面し、右往左往しながらも、意欲を失うことなくプロジェクトを完遂してくれました。そして、課題を正確に把握することが実はもっとも困難で、そして創造的な行為でもあるということを感じ取ってくれたようにも思います。授業を作る側にとっても新しい挑戦を含んだ取り組みですが、学生たちがプロジェクトにのめり込んで活き活きと活動する姿をみるのは、「脇役」である教員にとっても有意義な経験となりました。
 座談会のなかにも出てくるとおり、今回のプロジェクトがすべて終了した後の2016年6月に、プロジェクトのフォローアップとして、学生たちと京北地域を再訪する機会がありました。その際に、今回のプロジェクトの成果物が、地域振興に取り組む現場で実際に活用され、政策立案の参考資料として部分的にではあれ採用されたことを、地域の行政長から伺いました。それは、実際にプロジェクトに取り組んだ学生たちにとってはもちろんのこと、新しい大学院教育のかたちを模索する超域プログラムにとっても、大きな手応えを感じることのできた瞬間だったと思います。

 長期にわたって協力いただいた京北地域の関係者のみなさまに、改めて感謝申し上げます。

集合写真s
■1.課題を(再)定義する ■2.プロジェクトを通して学ぶ ■3.現場の実課題と向き合う
■4.おわりに