● 超イノベーション・コア「超域イノベーション総合」
授業レポート

社会を考え、動かすプロジェクト
―超域イノベーション総合―

授業担当:藤田喜久雄(工学研究科) 山崎吾郎(COデザインセンター)
大杉卓三 大谷洋介 渕上ゆかり 山村麻予(未来戦略機構)

Texted BY 2013年度生 花井舜平 高田一輝 篠塚友香子 鵜飼洋史 増田壮志
担当教員 山崎吾郎(COデザインセンター)

■はじめに

 超域イノベーション総合(授業パンフレット)は、超域イノベーション博士課程プログラムの3年次(博士後期課程1年)に行われる必修科目です。この科目では、これまで2年間プログラムで培ってきた知識や経験を総動員して、8ヶ月に渡るプロジェクトにチームで取り組みます。プロジェクトを通して、これまでに学んできたことを一段と深く理解するとともに、実社会の課題に自分たちなりの新しい価値提案をすること、それがこの科目の目指すところです。
 2015年度は、超域プログラムの2013年度生(2期生)10名が、2つのチームに分かれてプロジェクトを実施しました。今回は、そのうちの一つ、京都市右京区にある旧京北町(以下、京北地域)の行政(右京区役所京北出張所)、及び地元のNPO(京北コミュニティビジネス)と協力しながら行ったプロジェクトの内容を紹介します。

京北班の課題

京北チームの課題

 今回、授業に協力いただいた京北地域の担当者から提示された課題は「京北地域の振興につながる「空き家」対策を提案せよ」というものでした。大阪市とほぼ同じ広大な面積をもつ京北地域は、その93%が山林で、北山杉に代表される林業の盛んな地域として古くから知られてきました。しかし、近年の少子高齢化、地域経済の縮小、都市への人口流出、さらなる過疎化の進行という悪循環のなかで、行政もNPOも、地域振興にとりくむうえでさまざまな課題に直面しています。
 「空き家」の問題は、そうした大きな社会の変化のなかで現れる課題の一つです。それだけに、一朝一夕に解決が見込めるわけではありません。履修生に提示された課題文は、一見すると単純にも思えますが、「空き家とは何か」、「空き家はいかに生まれるか」といった課題の意味を掘り下げて把握していくと、実はその背後に膨大な社会経済的要因が関わっており、また地元の人たちの生活感覚や価値観などさまざまな思いが絡みあう複雑な課題であることがわかってきます。

 履修生たちが約1年間、どんなふうにこのプロジェクトに取り組み、そしてそれを通じて何を学んだのかを、プロジェクトを振り返る座談会の形式で聞いてみました。

Index

■1.課題を(再)定義する

(山崎)

今日は忙しいところ、集まってくれてありがとうございます。今日来てくれた鵜飼君、篠塚さん、高田君、花井君に、来られなかった増田君を含めた5人が、京北チームのメンバーですね。まずは、超域イノベーション総合(以下、総合)の授業に約8か月間(4月~11月)取り組んだ感想を聞かせてください。4月にはじめて課題をみたときは、どう感じましたか?

(高田)

1年前に、「超域イノベーション展開(以下、展開)」(授業レポート12)というプロジェクト型の授業に取り組んでいたので、総合も同じような感じで、みんなでワイワイ議論しながら進めるのかなと想像していました。ただ、どんなアウトプットが求められているのかと考えると、8か月と期間も長いので、なにか「超域的」で斬新な空き家活用方法を考えなければいけないのかなと思っていました。

(篠塚)

最初は「空き家」という言葉から、ひとつの家、ひとつの空き家という狭いスケールで課題を捉えていたので、例えば、ある家が「空き家化」する過程に含まれる要因などを考えていました。でも進めていくにつれて、過疎化が進む地域の状況だとか、空き家問題に関わっている人たちそれぞれの意図だとか、もっと大きな枠組みで考えないといけないことがわかってきました。

(鵜飼)

僕も最初は「そこに空き家がある、それをどんな風に使うのか」ということだけを考えたらいいのかなという、わりと単純なイメージで捉えていました。空き家の使い方を考えて、それを提案すればいいのだろうと。

(花井)

自分の実家の近隣にも空き家があるので、この授業を通してその空き家についても考えてみたいなと思っていました。ですけど、そもそも「空き家とはなにか?」というところがよく分からなかった。年に一回、お盆のときに帰ってきて使うだけでも空き家なのかとか、人によって捉え方が随分違ってきますし。徐々に、思ったより簡単な課題ではないことがわかってきましたね。

(篠塚)

私達のチームは、課題を捉えなおす(課題の再定義)までにかなり時間がかかったのだと思います。

(高田)

空き家とは何か、というテーマでブレーンストーミングしてみたりしたね。斬新な「空き家」定義が出てきたり(笑)。

(山崎)

課題を定義しなおさなければ、という気づきがどこかであったのですか?

(篠塚)

展開の授業でシステム思考を実際に手法として体験していたので、必要なプロセスとしては意識していました。でも、具体的にそれが自分たちのプロジェクトにとってどういうプロセスなのか、うまくイメージできないまま時間が過ぎていってしまった感じでしょうか。課題を定義したと思っても、あれ、元の課題の意図と違ってしまってないかな、みたいな。長期間のプロジェクトを回した経験がなかったので、どうも実感が掴めず、自分たちの決定に自信がもてなかった。

(高田)

もし僕らが斬新な提案を生み出せたとしても、結局は実行の段階で上手くいかないんじゃないかと、どこかで考えていました。斬新な提案だからといって、それが有効な提案であるとも限らないですし。それに、実際に現場に入ってみたら、空き家対策を自分たちが考えて提案したところで、それがそのまま受け入れてもらえるかというと、必ずしもそうではないなという気づきもありましたね。そこから、実際に現場で受け入れられる提案をするためには「課題を再定義する必要があるな」という風に考えました。

(山崎)

「空き家対策」という課題について考えるためには、その前段階で考えなくてはいけない事、課題が生み出されるプロセスを考えなくてはいけないということですね。個別の対処療法的なアイデアで勝負をするのではなくて、広い視野で課題を俯瞰しなければいけないのだと気がついて、取り組み方が何か変わりましたか?

(花井)

まずは情報を集めようと思い、がむしゃらに現地調査をしましたね。調査をしていると調査の仕方、調査の目的がよくわからなくなってきました。そこで、現地調査やフィールドワークの仕方について、学内で関連するテーマを研究されている専門家の意見をお聞きしたいと思い、文学研究科の堤研二先生に助言を頂きました。

(篠塚)

地域コンサルの専門家や堤先生のお話を聞き、自分たちがどのような立場で、誰のために、誰に対して提案をするのか、そういうことをチーム内で明確にしないまま現地調査をしていたと気づかされました。自分たちがどういった立場で地域の人と関わって、自分たちに何ができるのかを考えるようになったのが、私達のプロジェクトにとっての転換点だったように思います。それまでは、情報だけは沢山集まりましたけど、その膨大な情報をただ整理しているような感じで、なんとなくこの辺りが着地点だろうというのが見えてきた頃にはプロジェクトも後半にさしかかっていました…。

写真_現地調査2s
■1.課題を(再)定義する ■2.プロジェクトを通して学ぶ ■3.現場の実課題と向き合う
■4.おわりに