● 超域イノベーション・コア「システム思考(旧 超域イノベーション導入I)」

問題の構造と要点を見極める
システムという考え方

担当教員:藤田 喜久雄(工学研究科)
山崎 吾郎(COデザインセンター)
大谷 洋介(未来戦略機構)

Texted by 大谷 洋介

システム思考

問題の全体像とキモを捉える

 本プログラムでは、博士号取得者がアカデミアに留まらず、もっと広く様々な場面で活躍できる能力を身につけることを目標としています。実社会の中には未知で複雑で困難な課題があふれ、それらを解決するためには複雑な全体像の中から要点(キモ)を特定して、的確にアプローチすることが求められます。
 この授業では、対象の構造とその特性を具体的に描き出すためのシステムモデリングについての講述と、複雑な問題において大局・全体像・根本を見るためのシステム思考についての演習を行います。これにより、システムという考え方とそれを利用した問題解決についての基本的な理解を獲得することを目的としています。

ループ図による構造の「見える化」

 社会における問題には通常、非常に多くの要素が存在し、そしてそのごく一部しか表面には表れてきません。表面的に見えやすい一部分だけに着目していては、全体最適解の創出は望むべくもありません。むしろ部分の最適化は全体の最適化を妨げることすらあります。
 全体最適解の創出のためには、まず問題が複雑であることを理解し、複雑な全体像の中からキモを見つけ出すことが不可欠です。そのために必要となるのが全体構造の「見える化」のためのツール、ループ図です。
 例えば、少子化問題解決のための子ども手当は、全体の解決を導く最適解たりうるでしょうか。授業の中ではこの問題を例にループ図を構築する講述を実施しました。まず関係する要素を可能な限り多く書き出し、因果関係の矢印で繋ぐことで、少子化問題の全体構造を見える化していきます。次いで描き出された全体構造を俯瞰し、望ましい変化を作り出すためにアプローチすべきキモ(レバレッジポイント)を探し出します。これにより問題認識を共有し、効果的な解決策・戦略を策定するための方法論について、基本的な考えを習得していきます。

図1


戦略ゲームを用いたシステム思考の体感

 システムという考え方を理解するための導入として、システム思考の基本を身につけるためには、頭で理解するだけではなく体感することが非常に重要です。この授業ではある程度要素の数を限定し、コントロール下での効果的な演習を行うために「Keep cool(キープクール)」という戦略ボードゲームを題材としています。

写真1

 ドイツのポツダム気候影響研究所が開発したこのゲームは、参加者が世界の各経済地域を担い、経済発展のための工場建設で地球温暖化を促進したり、環境へのダメージを避けるための技術開発やCO2排出国への経済援助で地球温暖化を抑えたりしながら、自地域の条件達成をいち早く目指すものです。条件達成のために利己的に経済発展を優先しすぎると地球が破滅し、だれも勝者になることができません。一方、環境を保全し破滅を避けるための協調路線が過ぎると、経済が停滞し敗者となってしまいます。破滅を避けつつ他地域を出し抜く最適戦略を導き出すためには、工場建設の環境へのダメージ・環境対策による経済的損失・地球破滅までの猶予・他地域の特性と戦略・協調する相手といった多くの要因を加味する必要があります。
 このゲームを何度かプレイした後、履修生にはゲーム内に登場した要素を使ってループ図を作成してもらいます。複雑過ぎてプレイ中には把握できなかった全体像・他地域の戦略・地球破滅への転換点などを可視化し、勝利するためにはどの部分がキモで、どの段階で何を選択すべきだったのかを、ループ図を使って振り返っていきます。

写真2

 この演習を通じて、複雑で全体像が掴みにくい課題に対してシステム思考が有効であることを体感し、問題のキモを見つけ出す方法論に対する理解を得ることがこの授業の目的でした。学生達は当初、要素の多さと関係性の複雑さに当惑していましたが、単純なループ図から徐々に範囲を広げていくという方法で、最終的には多くの学生が全体構造の可視化に成功していました。ループ図作成の一番の難しさは要素の洗い出しと因果関係を循環図で表す部分にあり、要素・因果関係の限られたゲームを題材とすることで、熱中し、楽しみながら基本を学ぶことが出来たのではないかと思います。

実社会での実践に向けて

 もちろん、この授業の演習だけでシステム思考を完璧に身につけ、実社会の問題にいきなり適用することは難しいでしょう。本プログラムではこの授業を下地に、実社会の一筋縄ではいかない問題に取り組む授業がいくつか設定されており(超域イノベーション展開・超域イノベーション総合など)、履修生にはそれらを通じて問題解決技法を自分のものとしていくことを期待しています。


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