● 社会的課題解決・ラーニング

議論する超域生
社会の中の科学技術 −トランス・サイエンス的問題−

担当教員:小林傳司(大阪大学CSCD)、八木絵香(大阪大学CSCD)
TEXT BY:中川智絵(大阪大学未来戦略機構)

 本授業では、社会の中で巨大な存在となった科学技術の営みが、社会にもたらした影響について、専門性の異なる者同士の議論を通じて、履修生が多面的な理解を得ることを目指しています。「実験室の中の科学技術と社会の中の科学技術との違いを理解できるようになる」、「『科学に問うことはできるが、科学が答えることのできない問題群』(トランス・サイエンス的問題群)の存在を理解できるようになる」「このような問題群に対して、専門性を動員・協働することの重要性を理解し、実際にできるようになる」など*1を到達目標に掲げ、ワークショップ型授業を4日間に渡って実施しました。
 本レポートは、授業の実施内容や履修生の様子を中心に、授業実施に携わった研究員の目線で書き記した観察ノートです。

初日

5/16(木) 6・7限 

<本日のプログラム>
講義1「科学技術コミュニケーション:『科学技術と社会』という課題」

 小林先生より、社会の中での科学のとらえられ方・科学や科学者に求められる役割の変化について語られました。その中で、トランス・サイエンス的問題群について、原子力発電所のリスクやイギリスのBSE事件を例に上げ、「不確実な科学知識に基づく社会的意思決定」や「社会的意思決定における科学者の役割」に関する悩ましい問いが投げかけられました。

講義2「現状、計画されている高レベル放射性廃棄物の『地層処分』」

 八木先生より、題名通り、高レベル放射性廃棄物の地層処分について、実施計画やこれまでの経緯について語られました。そして、2012年9月に日本学術会議が出した「回答 高レベル放射性廃棄物の処分について」の提言を取り上げ、地層処分を巡る問題のフレームの説明が行われました。最後に、次回の討議のテーマ「高レベル放射性廃棄物の処分に関して、地層処分を行うのか、地上管理を行うのか、どうするのか?」「地層処分にせよ、地上管理にせよ、高レベル放射性廃棄物を置いておく場所は、1箇所にするのか、複数箇所にするのか?」について、それぞれ自身の考えをまとめてくるという課題が伝えられました。

2日目

5/25(土) 終日

<本日のプログラム>

グループ分け

 履修生は1グループ、7名として、2グループに分けました。グループ分けは教員が行いました。

グループ討議

議題1「高レベル放射性廃棄物の処分に関して、地層処分を行うのか、地上管理を行うのか、どうするのか?」
議題2「地層処分にせよ、地上管理にせよ、高レベル放射性廃棄物を置いておく場所は、1箇所にするのか、複数箇所にするのか?」

 今日は、上記二つの課題についてグループ討議が行われました。両グループとも、個人の意見の発表、共有の後、議論を行いグループとして意見を取りまとめました。発表までの時間配分、議論の進め方は各グループに委ねられました。
 グループ討議には不慣れということで、進行役、書記、タイムキーパーなど役割の提示がなされましたが、履修生はこれらの役割にとらわれることなく、それぞれの適性を活かしてお互いをサポートしながらグループ討議を進めていたようでした。

全体発表

 全体発表では、グループの結論が、そこに至るまでの議論の流れや根拠とともに発表されました。両グループの発表内容は大きく異なるものでしたが、ともに社会の中では、不確実性がある技術に関しても何らかの判断をしていかなければならないという科学技術の扱いの難しさに触れたものでした。各グループの発表の後には、質疑応答があり、活発な意見交換が行われました。

課題発表

 次回までに「放射性廃棄物小委員会の委員の背景」を調べておくことが、課題として出されました。

<今日の研究員のツボ:役割分担>
協調性の高い集団やなぁ、これが今日の一番の印象でした。
 熱い思いで議論を推進していく人、積極的に発言する人、少し遠めな立ち位置から議論を俯瞰し、脱線しかけると修正する人、口数は少ないがここぞと言う時に発言し議論を深める人、質問することで論点を明確にしようとする人、書記として論点を整理する人、議論がスムーズに進むように環境を整える人、全員が議論に参加できるように発言を促す人、時間管理をする人、進行役が困った時に手助けする人、意見が対立した時に建設的な方向へととりなす人、雰囲気を良くする人。様々な役割をこなす学生がいました。目安として教員から提示された役割にとらわれず、それぞれがなにがしかの役割を担い、課題に対する解を見出すためにグループとして活動している。いやぁ、上手くグループができているではないですか。これはおもしろい、ということで本授業の目的には掲げていませんが、グループ内の役割に注目していました。
 複数人が協力し、何事かを成すためには、「チームをいかに作るか」、「チームをいかに機能させるのか」、ということが重要になります。今日の授業の場合、グループメンバーは教員が決めたので、後者のチームを機能させるために、各人がグループ内でどのように振る舞うのか、グループにどのように貢献するのか、が大事になります。今回1回限りの観察では、彼らのグループ内での役割分担が意図的になされたものなのか(それぞれがメンバーを見て、自分の担うべき役割を考え、それを実行した)、絶妙な人選により偶然上手く組み合わさった(それぞれが自分の楽な振る舞い方をしていたら、偶然、良い組み合わせになっていた)だけなのかはわかりません。もし前者、すなわち個人の能力、適性を知り、戦略的にグループ内での役割を担っていたのなら、なんとチームワークに長けた集団か!

3日目

6/8(土) 終日

<本日のプログラム>

グループ討議

議題「高レベル放射性廃棄物処理の問題を議論するべき審議会の委員は誰か?」

 二日目と同じグループで討議が行われました。グループ討議の進行は、前回同様各グループに委ねられました。両グループとも、初めのうちは机を囲んで、互いに調べてきた「放射性廃棄物小委員会の構成員」の情報共有をしていましたが、途中から全員が立ち上がっての活発な議論になりました。

全体発表と全体議論

 発表では、様々な専門家や立場の人の協働が必要なことを前提に、人選のバランスの取り方について意見が出されました。今日は討議テーマが一つだったこともあり、発表の後、質疑応答を含む教員を交えての全体議論に多くの時間が費やされました。

課題発表

 次回までに「この授業で今まで扱ったものを自身の専門分野に関連づける」が課題として出されました。まとめ方は自由であるが、次回課題の発表があることも合わせて伝えられました。

<今日の研究員のツボ:アプローチ>
スタートは一緒だった。なのに、どうしてこうなった?
 今日は、放射性廃棄物小委員会の構成員を足がかりにして、どのような人物群がこの審議会の構成員として適しているのかを話し合いました。
 まず、両グループとも、放射性廃棄物小委員会の構成員がどういう人物なのかについて情報共有から始めました。先に動きがあったのは、Aグループ。全員が立ち上がって、ホワイトボードに向かいました。「この委員会の構成員で良いのか?」を判断するために、分類の枠組みを作成し、委員の専門分野や地層処分に対する意見*2(賛成・推進なのか、反対なのか、表明していないのか)、属性(専門家、政治家、市民など)などの情報から、構成員をマトリックス上に整理し始めたのです。Aグループが着目したのは、地層処分に対する意見。審議会として地層処分に対して賛成/反対のバランスが取れていることを重視したのでした。その結果、地層処分推進派が多いということが決め手となり、早いタイミングで現在の委員の構成に「No!」の判断を下すことになりました。そして、構成員には、どのような専門分野・属性の人が必要か、マトリックスの枠組みについて議論が進んでいきました。どうやら、「理想の審議会の形」というものが(少なくともAグループメンバー間には)あり、今の審議会がそれに合致しているのかを評価し、合致させられるような構成員の必要要素を考えたようでした。
 さて、では、Bグループはどうしたのか?同じように情報共有をしました。違いがでたのは、整理の仕方でした。Bグループは、質的データの分析を行うように、似たもののグルーピングから全体の構造化を行いました。外部からの評価軸を入れずに、まず審議会構成の枠組みを探り、その枠組みを評価しようとしているようでした。最終的に考えだされた枠組みはBグループも納得するものでした。この枠組みに現在の審議会の構成員を当てはめたところ、バランスの取れた人選であったことから、Bグループは審議会の構成員に「Yes!」の判断を下すこととなりました。ちなみにBグループは地層処分に対する意見についてはあまり考慮に入れている様子はありませんでした。この点もAグループとは異なる点でした。
 枠組みを考えてから、具体的な中身を考えていったAグループ。与えられたデータを基に枠組みを構築していったBグループ。大雑把な言い方をすれば、そういうことなんだろうなぁ。どちらが良いとは一概に言えませんが、対照的な議論の進め方を見せてくれた授業でした。そんな違いに超域生は気づいていたのかしら?

4日目

6/13(木) 5・6・7限

<本日のプログラム>

個人発表と全体議論

 前回の課題を1人ずつ発表し、質疑応答を行っていきました。発表には、大きく分けて以下の四つ論点がありました。

①高レベル放射性廃棄物の問題に対して、自身の専門分野が貢献できること
 例えば、迷惑施設の建設の現状や合意形成の一助としての利害関係者が持つ情報の可視化、教育によって議論できる土壌を作ることなど
 
②トランス・サイエンス的な問題群を取り扱う際の難しさ
 例えば、科学者の役割や責任の所在、科学及び科学者への信頼など
 
③科学(者)の営みが持つあやふやさ
 例えば、データ、特に外れ値の取り扱いや科学的根拠からの判断に影響を及ぼすであろう要素など
 
④その他
 例えば、高レベル放射性廃棄物処理の問題に関連して、次世代への配慮や誰が補償するのか、科学では表せない議論が含まれているなどの論点

 上記の様な高レベル放射性廃棄物処理の問題や科学が持つ様々な論点が発表され、それぞれの発表に対する質疑も活発に行われました。

<最後の研究員のツボ>
 本授業では、2回のグループ討議を観察しました。前述のように、個人的にはとても興味深いものを見させて頂きました。離れた所からの観察だったことと個人的な興味から、グループ内の役割分担と議題へのアプローチの仕方という議論の進め方に注目してきました。議論の内容とともに議論の進め方についてもふりかえることは、参加した超域生にとって、今後グループ討議をする上で役に立つ示唆を与えてくれるのではないでしょうか。このようなことは、本授業の目的には掲げられてはいないんですけどね。

*1 https://koan.osaka-u.ac.jp/syllabus_ex/campus から、開講科目「社会の中の科学技術」で検索すると、全文が読めます。
*2 補足:日本では高レベル放射性廃棄物の処理は地層処分が計画され、処分地の公募や技術開発が進められています。ところが、2012年9月に日本学術審議会から処分方法を含めた大幅な計画の見直しが提言されました。今まで進められてきた計画が変更されるかもしれないという状況であり、放射性廃棄物小委員会での議論はとても重要なものであるといえます。

関連記事:トランス・サイエンスの時代における「媒介 milieu」の専門家