● 超域イノベーション・コア「課題解決ケーススタディIV」

最大公約数を導き出す
技と思考法

担当教員:金森 サヤ子(COデザインセンター)
Texted by 金森 サヤ子

授業の概要

 世界中の課題が高度に複雑化している近年、特に重視されてきているのが地球規模の保健医療課題(グローバルヘルス)です。本授業ではプログラムの中で履修生に提供されることの少なかったグローバルヘルスをテーマとして取り上げています。そして、そのダイナミクスと国際社会における各国及び日本の立場を学ぶことを通じて、国際課題の多角的視点からの理解とその複雑さを理解すると共に、交渉術やシステム思考の深化を、実践を通じて図ることを目的としました。
 全5回の授業のうち、初回はグローバルヘルスに関する国際潮流の講義を、続く第2、4、5回目の授業で「未知の感染症によるパンデミック対策」を事例として取り上げ、模擬国連形式のグループワークを実施し、政策策定・立場表明、交渉、発表、振り返りを行いました。第3回目の授業には、鷲見学外務省国際協力局国際保健政策室長をゲストスピーカーとして招聘し、フューチャーリーダーズ・フォーラム※1として授業を履修生以外にも開放しました。鷲見氏は本年7月まで国際連合日本政府代表部に勤務し、2014年のエボラ出血熱に関する国連決議案の交渉も担当されていたことから、ここでは最新の国際交渉現場等について語っていただきました。

※1:本プログラム履修生の将来を想定したキャリア教育の一環として平成25年度より始まった、国際舞台を含む様々な分野でリーダーとして活躍されている方々を招聘し、座談会形式でお話をお伺いする取り組み。

フューチャーリーダーズ・フォーラムにて鷲見氏に講演をしていただく

「最大公約数」を導き出す

 コアとなる模擬国連形式のグループワークは、「担当国のリサーチと政策策定・立場表明」、「交渉」、「決議案の策定と採択」、の大きく3つから構成されています。今回のテーマは「未知の感染症によるパンデミック対策」で、地球環境問題や安全保障問題等と比較して各国の対立要素が少なかったため、各国の基礎情報に加えて本国政府からの指示を設定しました。こうすることで、意図的に各国の利害が対立し合う構造を作り出し、その中で各国が交渉し、決議案を策定・採択できるような環境を創り出しました。
 「担当国のリサーチと政策策定・立場表明」では、単に情報収集能力や情報技術活用といった調査研究リテラシーが試されたのみならず、自国の立場や政策、そしてそれらの裏付けデータをポジションペーパーにまとめ、発表する過程を経ることによって、簡単な政策策定の仕方や、その後の交渉で他諸国を説得する※2ための戦略立案までを学習しました。今回のテーマはあくまでも「感染症対策」でしたが、実社会においては、これは保健医療分野という一専門分野の中で解決できるものではなく、経済・社会課題など、様々な他の専門分野の課題と深く関連しています。例えば、国境封鎖という政策を実施する場合は、他諸国との経済活動が一部停止することを意味しており、そのような状況の中で、如何に経済的デメリットを回避しつつ感染症の拡大を制御するのか、ということを考え抜くプロセスを通じて、システム思考の訓練をしました。
 続く「交渉」では、担当国の「トップ(追求したい最大の利益)」と「ボトム(これ以上妥協できない最低限確保したい利益)」を設定し、合意可能領域において出来うる限り多くの選択肢を準備することによって、他諸国との議論を通して互いに歩み寄り、最善の結論(最大公約数)を引き出す体験をしてもらいました。定価が設定されていない市場での価格交渉など、異なる利害を持つ二者以上の主体が合意を目指して協議することは、日常生活の中でもありふれています。しかしながら、このような日常生活の中では、トップとボトムを考慮し、全ての関係者の共益を見出すというプロセスを意識的に行っていません。今回の授業で履修生たちは、お互いの利益を探り合い、感染症を制圧するという国際共益を見据えつつ、議論を分析・評価し、構築する力を養いました
 最後の「決議案の策定と採択」では履修生たちに、交渉で合意した内容を、国連決議案という政策文書に落とし込んでもらいました。交渉を通じて口頭ベースで合意することと、それを後世に残る文書の形にまとめることの間には大きなギャップがあります。このプロセスを通じて彼らは、細部にまで拘る力を伸ばすことができたと思います。

※2:お互いの主張を支える論理を受け入れた上で、お互いが納得できる代替案を探すこと。

ポジションペーパーをもとに決議案のドラフトを行う

実社会での実践に向けて

 1923年にハーバード大学で開催された「模擬国際連盟(Model League of Nations)」を原点とする模擬国連は、一般的には数ヶ月から半年程度の時間をかけて取り組む教育プログラムです。今回の授業では、短時間で交渉の醍醐味を感じられるよう、独自のルールを採用しましたが、今回の授業だけで交渉術やシステム思考の深化を図り、実社会の課題に適用することは困難かもしれません。しかしながら、履修生は本授業を通じて、建設的な交渉への糸口を見出したほか、自身が何をできるのかということのみならず、他者に、如何に当事者意識を持たせるか、といった新たな課題を発見していました。履修生には、本授業を通じて得られた知識や技術、発見した課題を踏まえ、今後様々な課題解決に臆することなく取り組んでいってもらいたいと思います。

模擬国連を進めていく様子