■最後に

  本研究におけるFIRMNESSについて福原(2008)を参考に考えてみたい。前述のとおり、本研究では量的・質的アプローチをどちらも採用したミックスアプローチである。そのため、福島が提案しているmeasurableを取り入れたFIRMNESSの枠組みを用いる。まず、Feasibleであるが、研究のスコープを市町村レベルとし、要因として扱う変数も先行研究およびpreliminary analysisをもとにある程度範囲を限定している。そのため、研究実施にかかる期間および費用も期限内・予算内に収めることは十分可能であると考えている。また、人口データやその他のデータに関しては、センサスデータなどを用いるため、総務省の統計局または各市町村から入手可能であるため、本研究は十分実施可能な範囲にあるといえるだろう。
  次に、Interesting・NovelでかつRelevantかどうかに関してだが、東日本大震災に限らず、震災後のコミュニティの復興に関しては、先行研究では被災者に着目した研究が多く、コミュニティの政策がどのように復興に関わっているのかについて本研究のような視点からアプローチしたものが見られない。どのようなコミュニティがより復興しやすいのか、ある種のresilienceを持ち合わせているのか、ということについて本研究を通して明らかにしていくことは、復興だけでなく、将来の災害に備える防災政策にも関わる社会的意義(social relevance)のある研究であるといえるだろう。
  また、上述の通り、既存のデータを用いて、復興に関わる要因(i.e. 死者行方不明者数、浸水面積、社会人口増減率など)を測ることができるので、変数は測定可能であり、Measurableの条件を満たしているといえるだろう。ただし、こうした変数を尺度として用いること、例えば、復興の傾向を測る尺度として人口回復を用いることに関しては、いくらか議論の余地があるかもしれない。コミュニティの存続には一定程度の人口が必要であり、地域における産業も人が住んでいないことには成り立たない。こうした意味ではコミュニティの存在そのものを測る尺度として人口を用いることは理にかなっているものの、市町村の財政状況からも、各市町村の現状を知ることはできるだろう。このような人口回復以外の尺度に関しては、所属研究室でもこれまでに議論されており、今後の研究において他の尺度を用いたモデルを採用することも可能性として考えられる。
  Ethicalであるかどうかについては、特に研究対象である被災者への配慮が前提となるだろう。臨床研究のような倫理委員会が所属研究科には設置されていないが、インタビュー調査の際には大学におけるこうした研究の際のプロトコルを順守し実施する。最後に、Structured & Specificに関しては、上述の通り、先行研究およびpreliminary analysisにもとづいてある程度構造化されていると思う。しかしながら、被説明変数に関しては、議論の余地があること、また、説明変数に関してはより具体化・明確化する必要があると感じている。インタビュー調査の対象も、データの分析がある程度完了した上で確定する予定なので、データ分析を急ぐ必要があるだろう。

  以上のように、本研究では、よいリサーチクエスチョンを導くためのFIRMNESSの条件を一定程度満たしているといえるのではないだろうか。しかしながら、用いる尺度の問題や、倫理的な研究であることを保証するために、所属研究科だけでなく大阪大学におけるプロトコルに関して予め学んでおく必要があることがわかった。今後研究を進めていく過程で、FIRMNESSの枠組みに当てはめて考えることで、よりよい研究を目指したいと思う。

■追記

  追記として「知識のクレイム」に替わる研究のタイプを分類する枠組みについて、考えてみたいと思う。多様な研究研究科に所属する超域生と取り組んだ今回の授業を通して、Hulley et al.(2009)の提案する4つのタイプでは分類しきれないタイプの研究があるのではないかと感じた。もっとも基礎となる理論の研究を行っている理学研究科の金君の研究や、経済学研究科の村上さんの研究に関しては特に当てはまりがよくなかった。それは、「知識のクレイム」の分類が、部分的であるかもしくは階層を跨いだ形で組み立てられていたためではないかと思う。そこで、研究手法に関する経済学研究科の授業で扱われていた、Crotty(1998)による研究手法の分類を参考にした。Crottyは、Epistemology、Theoretical Perspective、Methodology、Methodsという流れで研究手法についてまとめている。これは、「知識のクレイム」の枠組みと同様に、研究者の「知」に関する根本的な考え方から出発し、理論のアプローチ(主義)、そして手法へと研究が構築されているものである(図3)。これに基づくと、研究のタイプはまず大きく3つに分けることができる(Objectivism, Constructivism, Subjectivism)。
  これに基づいて、Positivism, Interpretivism, Phenomenology, Feminismといった理論的枠組みに繋がっている。「知識のクレイム」では、ポスト実証主義、社会的構築主義、アドボカシー・参加型、プラグマティズムとなっており、この分類では、知識に対する根本的な考え方と、知識を得る目的が混在しているのではないだろうか。Crottyのモデルに基づくと、客観主義、構築主義、主観主義とすることで、まず「知ること」に対する根本的アプローチをベースに分類することができる。そして、次の分類で、実証主義やフェミニズムと分かれる。この分類を用いることで、客観主義的なアプローチであっても、理論的な枠組みとしてはフェミニズムに分類される研究なども分類しやすくなるのではないだろうか。

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■注釈・参考資料

(注釈)
*1:例えば、宮城県や岩手県の浸水地域における人口移動と、福島県の避難区域指定の出された11市町村における人口移動ではその意味合いが大きく異なる。

(参考資料)
福原俊一. (2008). リサーチ・クエスチョンの作り方. NPO法人健康医療評価研究機構 (iHope).
Hulley, S. B., Cummings, S. R., & Browner, W. S. 著., 木原雅子., 木原正博.,訳.(2009). 医学的研究のデザイン: 研究の質を高める疫学的アプローチ. メディカル・サイエンス・インターナショナル.
Crotty, M. (1998). The foundations of social research: Meaning and perspective in the research process. Sage.
角谷、奥山 (2012)ミクロデータ分析I. レクチャーノート(2012/04/10)大阪大学経済学研究科.


※本記事は、2013年度開講の「超域ラーニング:リサーチデザイン(担当教員:平井 啓(大型教育研究プロジェクト支援室)、祖父江 友季(医学系研究科)、標葉 靖子(未来戦略機構))」において提出されたレポートを元としています。

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