■問題とは?

 あなたは、“問題”と聞いて何を思い浮かべますか? 私は、“問題”と聞くと、すぐにネガティブなイメージを連想してしまいます。しかし、環境問題や格差問題、試験問題などいろいろな種類の問題がありますが、それぞれの問題は英語に訳すとProblem、Issue、Questionであり、特にProblem(解決されるべき問題)とIssue(議論するべき問い)に関しては普段あまり区別することなく捉えているように思います。当たり前のことを言っているだけかもしれませんが、私は海外に、とりわけ開発途上国に特別な理由を持って行く際には、これらを区別することはすごく重要なことだとフィールドスタディを通じて感じました。
 例えば、私たちのフィールドスタディの一つの目的として、“課題を発見する力を身につける”といったことが課せられていました。しかし、ここでいう課題(Challenge)を無意識のうちに問題(Problem)として認識し、『発展途上国にはどのような問題があるのか』という、あたかもProblemがあることが前提として、しばらく現地で過ごしていたように思います。

 一つ、スリランカに滞在中に実際にそう感じた例を紹介します。
 スリランカの都市のひとつ、トリンコマリーにあるPWJの事務所で、職員の方に現地で行っている支援活動について紹介していただきました。その中で、彼らが抱えている問題の一つとして、“彼らが支援として農作器具などを与えたとしても、それを住民の方に継続的に使ってもらうことができていない”という悩みがあることを教えてもらいました。
 その後、PWJのオフィスや現地の大学で予定されていた発表の準備をしている際、超域生の数人と、PWJの方が行っている“支援”について議論をしました。ホームステイを体験することで、村の人々の温かさや豊かさを感じた私からしたら、村民が農作器具を使うことを選ばなかったということは、それは彼にとって必要でなかったからで、それを押し付けることは本当に“支援”と呼ぶのだろうか疑問に思いました。それは結局、先進国側からの開発途上国側への押し付けではないのかと。すると、その話を端から聞いていた別の学生が私たちにこう言いました。

 「ここに住みながら何年も彼らと向き合ってきたPWJの職員たちは、そんなこと重々承知な上で、悩みながらこの問題に向き合っているとおもうよ。だから、この村にきてたった1週間も満たない僕らが、どっちが正しいとか間違っているとか言うことに、そんなに価値はないと思う。

 要するに、私が言いたいのは、私は、PWJの職員が私たちに教えてくれた“問題”を、IssueとしてではなくProblemとしてしか捉えられてなかったということです。現地の方々への支援が継続できていない状況に対して、最初からProblemだとしてみてみると、どうやったら継続して使ってもらうかの手段を考えるか、もしくは、Problemとしているのがそもそもの間違いだ、だからその支援は必要ない、と支援に対して否定的に考えるかの、どちらかにすぐにたどり着いてしまいます。
 そこで私たちに必要だったことは、現状をProblemとしてではなくIssueとして捉えるべきでした。そして、Issueに対して明確な答えを持つためには、当事者と直接向き合う他ないのだともPWJ職員の話や、別の学生からの意見を通じて学ばされました。

 みなさんも、海外で何か問題だと感じるものに出会ったとき、それがProblemなのかIssueなのかを意識して考えてみてください。そして、それがあなたにとってIssueだったのであれば、あなたは日本に帰ってからもその問いとはずっと向き合いつづけることができます。それは何ものにも変えがたい自分へのお土産になるのではないでしょうか。

■最後に

 このフィールドスタディの中で、PWJの方々のお話や農村ムトゥールでのホームステイ体験、コロンボ大学での学生との交流などを経て、一人の人間として何をこれから大切にしていくべきなのか、“豊かさとは何か”といった答えのない問いについて考えるようになりました。
 私たちが今後、どう発展していくべきなのか、その答えを明確に提示できる人は存在しないと思います。しかし、少なくともより良い未来のために、私たち一人一人が幸せとは、豊かな暮らしとは何かを自分自身に対して問い直すことはできるはずです。
 2週間のスリランカでの様々な体験活動の中で、PWJの職員の方々やホームステイ先の家族をはじめ、村民全員が私たちに、人と人のつながりの大切さや、家族の温かさ、自然の雄大さなど多くのことを教えてくれたことは言うまでもありません。一方で、私たちが滞在した農村の人々や、PWJの方々、コロンボ大学での発表で、彼らのような現地の人々に、私たちから与えられたことが果たしてあったのだろうかとふと考えることがあります。もし願えるならば、それは単なる押し付けかもしれませんが、スリランカでの生活の中で、私たち超域生一人一人が見せた楽しさや喜び、感動に満ちた笑顔や感謝の言葉が、彼らの記憶の片隅に残ってくれればと思います。

bt_02 bt_01