Texted BY: 理学研究科  山脇 竹生
専攻:化学専攻
専門分野:タンパク質が機能発現するメカニズムの解明、共鳴ラマン分光法

  前半のレポートではホームステイに焦点を当てたので、後半では、研修中の授業がどうであったかに焦点を当てたい。モナシュ大学の授業は学力別に分かれ、私は真ん中くらいのクラスだった。1ヵ月の授業を通して2つの重要な価値観の変化があった。訛りの重要性とノイズの重要性である。順に説明していく。


  英語を学ぶとき、訛りの強い英語の先生は嫌だという人は多いのではないか。私もその一人だった。モナシュ大学の先生の発音はきれいだったのだが、生徒は各国特有の訛りある英語で、グループディスカッションが多かったために、自分を含め訛った英語ばかり聞いたり、話したりしていた。学生と話して英語の練習になるのかと疑問だったが、あることをきっかけに、むしろこの方がよかったと価値観が変わった。
  以前、研究科より国際学会で発表した際、中国の学生に質問されたのだが「アキチャン」という単語がまったくわからなかった。結局質問が理解できず残念な思いをしたことがあった。モナシュのクラスで中国の人と話した時、「アキチャン」が再登場した。結局オキシジェンoxygenが訛ってそう聞こえていたのだった。そのとき思ったのが、あえて各国の訛りの強い英語を学んでおいた方が、将来役に立つのではないかということだった。訛りの強い人と、しかもいろいろな国の人と話せる機会なんて滅多にないのだから良い経験ができたと思う。TOEICやIELTSといった英語テストは、英語の正確性を測定するテストで、確かにこちらも重要なのだが、グローバルな視点にたったとき、本当に必要なのはテストスコアではなく、いかにコミュニケートできるかである。自分が伝わる英語を話すのも重要だが、どんな相手の話でも聞けるようになることだって同じくらい重要なのだ。既存のテストでは測れない力も大事だと訛りの重要性に気付いた。

kore

  モナシュ大学のクラスは、同じ英語レベル同士でクラス分けされているのに、なぜか流暢に聞こえる人と、そうでない生徒がいた。よく観察すると、流暢な人はノイズが多いことが分かった。後で説明するがこのノイズはfiller wordsというそうだ。なぜこんな事に気づいたかというと、以前超域の授業で、マイクロスリップについて学んだことがあったからだった。マイクロスリップとは認知心理学の用語で、ある行為をするときに入るノイズのこと。例えばコップをつかむとき、なんとなく掴むのと、演技のときのようにコップを意識してつかむのとでは動きの自然さが違う。より自然な動きに見えるのは意識せず掴む方で、無駄な動きのためにそう見えるという。動きも会話も無駄があった方が自然に見えるということだ。
  綺麗な発音を意識して話すと、英会話はぎこちない演技のようにギクシャクしていて、翻訳機を通したように感情が伝わらなかった。反対に、発音の正確性など気にせず思いのまま話した方が、感情が伝わった。前者と後者の違いは、後者の方が、「あー」とか「えー」といった無駄な単語(ノイズ)が入るということだ。
  最終週に聞いた話だが、先生によれば、このノイズはfiller words(=ほら、あれ、確か…など)と呼ぶらしく、filler wordsを挟んで話すグループの方が、そうでないグループより英語が流暢に聞こえる実験結果があるという。確かに日常生活の会話を意識して聞いてみると、ネイティブの人の方がfiller wordsを多用していた。

  1ヵ月を通して、訛りの強い人とも話せる能力と流暢に聞こえる仕組みを理解した。もちろん英語力も伸びたが、既存のテストでは測れないこういった知識に気づき、実感できたことの方が、超域生として留学に行った価値があると思う。 DSC_0194