Texted BY: 人間科学研究科  篠塚 友香子
専攻:人間学
専門分野:現代思想

  私たち13年度生は8月8日から9月8日の一ヶ月間、オーストラリアのメルボルンで語学研修に参加した。オーストラリアでの一ヶ月間、私は「語学研修」という一言で括ることのできない体験ができたと思う。今回は、私がメルボルンでの語学研修を通じて感じたことを、かいつまんでではあるが報告したい。


■ホームステイ:
  私が海外に行くたびに感じることは、自分自身が普段の生活の中でいかに「言わなくても伝わるという状況」を頼りにして生活しているかということである。つまり、日本の文化圏の中ではわざわざ説明しなくても伝わる「日本での当たり前」は、外国においては全く通用しないということに改めて気づかされるのである。
  この「言わなければ伝わらない」という状況に身を置くことは、語学力を向上させるためには重要であるように思われる。どうにかして自分の意見を伝えなければ(大げさだが)生きていけないという環境に一定期間身を置けば、ある程度自分を他言語で伝える能力は鍛えられると思うからである。その点で、今回オーストラリアの語学研修でホームステイを体験できたのは、私にとっては良い経験となった。というのも、いつも当たり前とみなしていちいち言語化しないようなことでも、ホストファミリーに英語で伝える必要があり、ホストファミリーとの関係を築いていく過程で自然と英語力が鍛えられるからである。ホストファミリーとの共通の趣味を見つけてその話題で盛り上がったり、お互いの文化について話し合ったりという日々のコミュニケーションにおいて、英語は学ぶ対象ではなく手段となる。
  英語を手段として海外で交流の輪を広げたい、まさにこれが私の英語を学ぶ動機であり、そのことを日常生活の水準で意識しながら一ヶ月間生活できたことは貴重な体験であった。

■多文化共生都市:
  メルボルンは不思議な都市であった。初めて市の中心部に出た時、私は何とも言えない感覚で満たされた。かつて訪れたことはないのにどこか懐かしい感じがした。アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中東…様々な国のエッセンスが少しずつ取り入れられた街に立って、私は外国にいるという実感を持てなかった。授業の空き時間は美術館に行くことが多かったが、中でも一番印象に残っているのがImmigration Museumである。オーストラリアは移民国家として知られているが、そこはオーストラリアの歴史を移民の視点から提示した美術館であった。なぜこの美術館が印象に残っているかというと、そこへの訪問によって私のメルボルンへの印象が変化したからである。この美術館に訪れる以前、メルボルンは私にとって「多文化共生都市」というどこか理想的で調和のとれた街であった。けれども、「多文化共生都市」という言葉の裏には、個人個人の人生があり、葛藤があり、悲しみがあるという当たり前のことに今更ながら気づいたのである。
  この気付きによって私の視点は外側からメルボルンを眺める「観光客の視点」から、内側からメルボルンを見る視点に変化したと思う。行き帰りの電車の中の人の様子、街ですれちがう人々、デモをする人々、私はメルボルンで暮らす人が何を感じながら生活しているのだろうと考えたりもした。この視点にたったとき、世界は国家規模、地球規模の様々な問題を抱えているが、一方で無数の人の日常、人生の集合体が世界を形づくっているのだなとぼんやりと考えたのであった。そして海外でのこのような視点の動き、つまり異国における「外から眺める」から「内側から眺める」視点への変化は、研究においても必要とされるだろう。 ものごとを多様な視点から捉えることの重要性は、本プログラムの授業を通じても学んできたことであった。しかし、ただ多様な視点や考えを知ることで満足するのではなく、そこから何か自分なりの考えを算出する力が必要である。個人的に、考えを算出する能力、さらにその考えをアウトプットする能力がまだ弱い。語弊があるかもしれないが、本プログラムを「利用」して、どこまでこの能力を伸ばせるかーこれが私の中の大きな課題の一つである。

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■今回の語学研修を今後にどう活かすか:
  私は去年6ヶ月間デンマークで留学した経験がある。デンマークに行った当初、私は誰一人として知り合いもいなかったし、事前調査も不十分だったため街のことも全く知らなかった。寮の前でうろうろしながら、出てきた人に「ランドリーはどこですか」「ふとんはどこに行けば買えますか」などを聞きながら生活をスタートさせたのであった。その点で、今回の語学研修はある程度環境が整った状態からのスタートであった。超域生と一緒にメルボルンへ行き、大学のスタッフの方々が授業の説明をしてくれ、ホストファミリーが迎えに来て勉強環境が整った部屋を与えてくれた。また、メルボルンはデンマークよりも日本人の数が多く、モナシュ大学でも多くの日本人が勉強していたため、周囲に日本人を見つけるのは簡単であった。
  そのため、滞在の前半は「この環境に甘えないこと」と意識的に自分に言い聞かせていた。1ヶ月という短期間であったし、もちろん去年経験した留学とは目的も違うものであるのだが、意識的に自分に言い聞かせないと受け身のまま時間が過ぎてしまうと思ったからである。しかし結果的に、今回の語学研修は周囲が環境を整えてくれたことですぐに勉強に集中することができたし、新しい環境にすんなり入り込むことができたのだと思う。今振り返ってみても、私は周囲の人の助けで勉強させてもらったのだとつくづく感じる。
  今回の語学研修で私たちは多くを学ばせてもらったが、今回何を学んだかということよりも、それを今後どう活かしていけるかということが重要であるだろう。メルボルンでの貴重な経験に感謝しつつ、次回のフィールドトリップや今後の将来の経験に活かしていきたい。