TEXT BY 瀧本 裕美子
研究科:人間科学研究科
専攻:人間学
専門分野:現代思想

はじめに

 私は人文学から建築論、都市論を考え直すことを研究のテーマとしている。将来は自らの理論を生み出し、それを現実の都市問題に対する一助になるように働きたいと思っている。ゆえに、プレインターンシップではたくさんの都市をこの目で見たいと思ったので、隣国との距離が近く、複数国の滞在が可能で、なおかつそれぞれの国で文化の違いが比較的見えやすいという特徴を持つ欧州を選択した。2週間と少し、という短期間にも関わらず4カ国をまわれたこと、更にある種比較可能な2つの都市、ハンブルクとロッテルダムを同時期に体感できたことは、今後の進路を考える上で大変有意義であった。

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訪問先

 滞在地は、パリ(フランス)、ロンドン(イギリス)、ミュンヘン(ドイツ)、ハンブルク(ドイツ)、グローニンゲン(オランダ)、アムステルダム(オランダ)、ライデン(オランダ)、ロッテルダム(オランダ)であった。訪問先は以下の通りである。

 • 3/15 UNESCO, ユネスコ世界遺産センター (Paris)
 • 3/16 Citè de l’architecture & du patrimoine, 建築・文化財博物館 (Paris)
 • 3/18 Southbank centre, サウスバンクセンター (London)
 • 3/19 AA school, 英国建築協会付属建築学校 (London)
 • 3/21 Munich, ミュンヘン (アポイントが取れず訪問先はなし)
 • 3/22 Prof. Breckner at HafenCity University,
    ハーフェンシティ大学Breckner教授 (Hamburg)
 • 3/23 InfoCenter and Osaka9 in HafenCity, 情報施設 (Hamburg)
 • 3/24 IBA Hamburg, ハンブルク国際建築博覧会 (Hamburg)
 • 3/25 Mr. Zerling at HWF Hamburg Business Development Corporation,
    Ms. Brueck at HafenCity University, ハンブルク経済振興公社Zerling氏,
    ハーフェンシティ大学インターナショナルオフィス長Brückさん (Hamburg)
 • 3/26 students of University of Groningen,
    オランダ・グローニンゲン大学の学生達とのセッション
 • 3/27 student of Leiden University,
    オランダ・ライデン大学の学生へのインタビュー
 • 3/28 Leiden University Leiden Leadership Program,
    ライデン大学リーダーシッププログラム担当教員および学生とのセッション
 • 3/29 Rotterdam Wilhelminapier Infocenter, ロッテルダム港湾開発地区視察

 私は今回のプレインターンシップを利用して、各都市のインフォメーションセンターや市民が集う施設がどのような場所に位置しているか、あるいは工夫をされているか、という実状を探ることを目的の一つにした。近年、EUでは都市競争が高まってきている。いかに都市を魅力あるものにしていくか、それぞれが戦略を練り、ビジョンを打ち立てて開発、あるいは再開発を行っている。中でも注目されるのが、「市民を巻き込む」形での開発である。こういった取り組みを先駆的に行ってきた欧州で、2年後のインターンシップができればと思い出発した。

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ハンブルクでの出来事――Osaka 9

Osaka9という施設がドイツ第2の都市であるハンブルクにある。
「えっ、大阪?」

 実はハンブルク市は大阪市の姉妹都市である。このつながりもあり、近年大規模な港湾都市開発が行われているハーフェンシティ地区のある道路が「大阪通り」と名付けられた。てっきりOsaka9は大阪市と関係のある施設なのだと思い、大阪市に問い合わせたところ、大阪市とは特に関わりがないという。謎は解決されないまま、現地に突入することになった。

 Osaka9は運河沿いにあるこじんまりとした建物で、その中ではハンブルクが現在取り組んでいる環境対策、特に建築や都市開発に関わる対策や今後のビジョンが展示されていた。ただ、展示の仕方が面白い。子どもも楽しめるようにイラストを用いるのはもちろんのこと、引き出しのようにフリップが出てくる仕組みや、実際の建築への応用がどこに行けば見られるかをわかりやすく示したマップが設置してあった。また展示の説明はドイツ語と英語が併記されてあり、多様な住み手、来訪者を想定し行動に移してあることが、この小さな展示施設からも伺える。

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 さて、最初の疑問である。展示を見る限りではOsaka に関するものは1つもなかった。更に9に至ってはヒントすら見当たらない。ためらいがちに係員に「私大阪出身なんですけど」と前置きを挟んだうえで理由を訊ねたところ、「あぁここの住所だよ」と。大阪通りの9番地。予想外の答えにあんぐりと口を開けてしまった。

ハンブルク――ビジョンが持つ力強さ

 姉妹都市である大阪市とハンブルクはまさにお互いがお互いの鏡であるかのようだ。ハンブルクが欧州の中でも脚光を浴びるのは、その圧倒的なスケールで行われている港湾都市開発、ハーフェンシティプロジェクトが理由である。居住スペースとオフィススペース、さらに娯楽(レストラン等も)を分割して配置するのではなく、柔軟に織り込ませていきながら、新しい「都市」へと変貌を遂げている港湾地区である。なぜハーフェンシティは成功しているのかとハーフェンシティ大学のBreckner教授に訊ねたところ、それはハンブルク市が設立したハンブルク・ハーフェンシティ都市開発公社が開発地区90%以上の所有者であり、計画を主導しているからだとの返答を頂いた。この「所有者である」ことにより、建てられる施設や建物に対して厳しい規制をかけることができるという。例えば建物を建設する際には必ずコンペを行わなければならない、また環境対策として厳しい基準を設ける等。また事業主を公社にすることによって、市政に変更があったとしても都市計画のビジョンまではねじ曲げられないことが、ここまでの成功のキーになっているとおっしゃっていた。
 ハーフェンシティへは多くの都市研究者、建築家あるいは行政が「ハンブルク詣」を行っていることからも、ハーフェンシティの未来は明るいかと思いきや、実際には他の多くの都市との競合の渦中にあることをハンブルク経済振興公社のツェーン氏から教えていただいた。確かに「港湾」そのものでの競争では、圧倒的にオランダのロッテルダム港が強いのである。輸送の側面からは、いかによい空港を備えているかが鍵になり、ミュンヘン市との競合もある。いくら港湾都市開発が魅力的に見えても、実際に経済活動が促進されなければ、企業を誘致することができなければハンブルク市の強さへつながっていかないのだと、再認識させられた。

インターンシップへの道のり

 プレインターンシップということで、私は他にも様々な人にインターンシップへの心構えを教えていただいた。特にオランダの学生からは彼ら自身の体験に基づくアドバイスをもらえた。あまり自分の専門に固執しすぎないこと、自分がその機関で学べる事の多さ・質でインターン先を決めること、他の候補者との競争があることを常に認識し、その上で自分の強みを明確に打ち出すこと等であった。また、UNESCO世界遺産センターではUNESCOでのインターンの可能性を探る事ができたのは大変有意義であった。
 このプレインターンシップでの経験を活かし、2年後のインターンシップへ向けて歩を進めていきたいと思う。

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