TEXT BY 村上 裕美
研究科:経済学研究科
専攻:経済学専攻
専門分野:一般均衡理論(数理経済学)

私のプレ・インターンシップの日程は次の通りであった。日付、滞在都市、( )内に主要な訪問先を示し、簡単なコメントを付している。
2月20日-23日 ジュネーヴ (ジュネーヴ高等研究所・国際連合ジュネーヴ事務局)
欧州グループ全員でのプログラム。ジュネーブ高等研究所では、「今後の日本とヨーロッパにおいて、世界に誇るべき価値は何か。またそれはなぜか。」というテーマでディスカッションを行い、“freedom”と「自由 self-reliance」の違いについて議論を行った。
2月23日-24日 パリ(カルナヴァレ美術館・モロー美術館)
カルナヴァレ美術館では、一般市民の生活も含めたフランスの歴史が各時代ごとに展示されている。フランス革命の資料が非常に充実しており、自由思想の台頭や潮流を感じ取ることができた。

2月24日-27日 ロンドン(オックスフォード大学・ケンブリッジ大学・大英博物館)
オックスフォード大学やケンブリッジ大学は、研究会等のアポイントの調整が上手くいかず、施設を見学するのみにとどまった。歴史ある建造物やカレッジ制ということが大きく影響しているのか、日本の大学とは根本的に異なるものであるように感じた。私の研究テーマは貨幣を含む経済モデルの記述であるため、大英博物館では貨幣のセクションを中心に見学し、その発展を学んだ。
2月27日-3月7日 グラスゴー(グラスゴー大学)
グラスゴー大学の林貴志先生の研究室をご訪問させて頂いた。今回のプレ・インターンシップで最も多くのことを学んだ、非常に充実した毎日だった。内容は下に詳述する。
3月7日-3月9日 エディンバラ(エディンバラ大学)
欧州グループ全員でのプログラム。エディンバラ大学でターナー先生のトランスファーラブルスキルの講義を受け、今回のプレインターンシップの振り返りをスライドでまとめて発表した。
3月10日 日本へ帰国
研究上特に得るところの大きかった、グラスゴー大学での活動を記録しておきたい。

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意思決定論がご専門のグラスゴー大学教授、林貴志先生に一週間お世話になった。林先生は、米国ローチェスター大学でPh.Dをご取得の後、テキサス大学で教鞭を取られ、昨年度グラスゴー大学へ赴任された、研究の第一線でご活躍中の先生である。林先生が2007年にご出版された「ミクロ経済学」(ミネルヴァ書房)は、学部一年次に購入し、長く勉強した教科書であった。今年ご改訂があるそうで、新しくお加えになったトピック等について、お話を直接お伺いすることもできた。

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まず、現在勉強中の数学テキスト、Halmosの “Measure Theory”6章をご指導頂いた。先生のご説明は非常に明晰で、加えて最近の経済学の論文を例としてたくさんご紹介下さるので、大変ありがたかった。
また、林先生のご経験をもとに、日本・アメリカ・イギリス各国の大学の講義や教育制度の相違点、それぞれの就職システムの良い点や悪い点といった貴重なお話を詳しくお聴かせ頂いた。いずれもまさにお伺いしてみたかった内容で、今後の進路について考える上で本当に勉強になった。
上に私の研究テーマは貨幣であると記したが、貨幣に関する経済学の論文についてもご相談に乗って頂いた。
・「現代の経済理論」岩井克人・伊藤元重編著 Ⅴ貨幣と信用の理論(清滝信宏)
・“Money in General Equilibrium Theory” Darrell Duffie (Handbook of Monetary Economics Chapter3)
などの文献をご紹介頂き、後者はコピーまで頂戴した。
最後に、林先生の代表的な論文のうちのひとつ、“Attitude toward imprecise information ”(2008)についてお話を伺う機会にも恵まれた。意思決定論の歴史的な経緯及び背景、現在取り組まれている問題、今後の展望といった包括的な全体像もお話し下さった。専門的な内容はやはり難しかったが、どういったところにご関心を持って研究されているか、どのような問題が解決されたのか、など極めて分かりやすくお話し頂き、大変勉強になった。林先生のように明快なご説明をできるように励みたい。
グラスゴーでは天候にも恵まれ、一週間が瞬く間に過ぎ去った。ここで得た経験を一言でまとめるのは難しいが、今後の進路や研究者としての生活、経済学という学問分野の在りようについて、海外の状況を含めた以前よりも広い、それでいて具体的な視点から考える時間を持てたことは、研究生活上極めて幸運なことであったと思う。この貴重なお時間を与えて下さった林貴志先生に、最大級の感謝を申し上げ、この報告の結びとする。