TEXT BY 松村 悠子
研究科:人間科学研究科
専攻:グローバル人間学専攻
専門分野:環境創成学

はじめに

 私は、日本の離島地域における新たなエネルギーシステムというテーマで研究を行っている。そして、将来は地域社会での持続可能なエネルギーシステム構築と、地域開発に寄与する研究を行いたいと考えている。また、この一年間は超域イノベーション博士課程プログラムに所属し、企業訪問や異分野の講義を受講してきた。プログラムの「研究」以外の活動は、「社会に貢献できる仕事をしたい」という自分のモチベーションを高めるとともに、研究の方向性や人生の進路について多方向の可能性を与えてくれた。そこで、博士前期課程1年の最終成果となる今回のプレインターンシップで、私は自分の研究と人生の進路を見つめ直す機会にしたいと考えた。

プレインターンシップの目的

 私は、今回のプレインターンシップで、主にドイツを訪問する事に決めた。それは、自身の研究に深く関係する。再生可能エネルギー普及においての先進地域と評される事の多い地域を自分の目で見て実情や地域社会に適応したエネルギーシステムなのか、体感したかったからである。

訪問箇所

(全てドイツ国内、他の超域生と集団で訪問した場所を除く)
・2/24ハンブルグ市庁舎、パーク&ライド設備・ハンブルク市美術館視察
・2/25ブレーマーハーフェン洋上風力発電関連プロジェクト視察、フラウンホーファー研究所視察
・2/26ダルデスハイム村 スマートグリッドプロジェクト視察
・2/27バイオマス自給自足村ユーンデ村視察ゲッティンゲン大学視察
・2/28フランクフルト市建設課インタビュー
・3/1フランクフルト→フライブルグへ移動
・3/3フライブルク市内視察
・3/4フライブルク市経済観光公社前田成子様インタビュー
・3/5移動フライブルグ→ベルリン緑の1Kwhの方へインタビュー
・3/6フンボルト大学ベルリン視察

学び

1.ドイツの再生可能エネルギーの現場を体感して
実際に行ってみたことで、知識とは別に地理的な差異を視覚的に実感することが出来た。例えば、アウトバーン(高速道路)の横には広大な丘陵地が広がっており、そこに吹く安定した風を活かし多くの風力発電機が稼働していた。アウトバーンで都市間を移動する間、ICE(新幹線)で移動する間、その景観が自然と目に入ってくる。それも、1,2カ所ではなく断続的に続いていた。一カ所あたりも10基ほどの風力発電機が設置されていて規模も大きい。ドイツの再生可能エネルギーの割合は2012年時点で24%と統計資料でまとめられているが、その数値を実感することもできた。再生可能エネルギーでエネルギー消費の4分の1とまかなうという事は、景色・景観にも確実に変化を与え、丘陵地に風力発電機が並ぶ光景が自然に感じられるようになっていくことなのかもしれないと感じた。

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2.ドイツにおける再生可能エネルギー促進要因
 ドイツには100以上の再生可能エネルギー自給村が存在している。その普及の原動力が何なのか、私は訪問前から気になっていた。また、ドイツは一般的に人々の環境意識が高いと言われている。プレインターンシップ以前、私はその環境意識が再生可能エネルギーの普及に最も大きな役割を果たしていると考えていた。
 今回、訪問した地域において、「再生可能エネルギーを推進すべきだ」「エネルギー使用量を削減するべきだ」という方針を強く示していたことは共通していた。しかしそれは、環境意識だけでなく再生可能エネルギーを導入する事で事業として成り立つ、またエネルギーコストが安くなるという経済的なインセンティブに支えられている事もわかった。一言目は、「導入すべき」という環境を優先する価値観、そして二言目には「長期的に見たら採算がとれる」であった。長期的に考える視野と再生可能エネルギーへの信頼性が、地域社会において大きな促進要因になっているのではないか、という示唆を得た。

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3.ドイツの環境意識について
 私は、プレインターンの期間中いろんな人の話を聞く中でドイツの環境を重視する価値観はどうやって醸成されてきたのか、という点に非常に興味を持った。この点に関して、今回のプレインターンを通して、インタビューから2つのアイディアを得た。
 ドイツの環境の概念は、森との関わりからも知る事が出来る。グリム童話の題材として多く見られるように、ドイツで森は身近で「森は友達」という感覚がある。そのために森が無くなったり、枯れていったりする事が悲しいのだそうだ。つまり、環境を身近に感じやすい国民性がある。次に、ドイツの環境問題の発端が黒い森とチェルノブイリ原発事故の影響(ミルクが飲めない、野菜が制限される、今でも食べられない品種があるなどの実生活影響)体験という要因だ。
 また、現地の学生とディスカッションする中で、ドイツの環境保護意識の高さに関するエピソードを聞いた。環境に優しいものを買う事がステータスや常識のような感覚がある、お金に困っていないのにオーガニックフードを買わないと、学識がないという印象を持たれるのだそうだ。

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超域という観点から

 プレインターンを通して、ドイツの多くの研究機関や大学、地域住民の方と直接に議論する機会を得た。また、再生可能エネルギーが普及していく様子を、地域社会における変化や景観からも体感した。これは、日本で文献やメディアを通じた情報からは得られない事実としてのインパクトがあった。
 また、ドイツと日本の状況には、制度・地理・環境要因など多くの異なる点はあると感じたものの、日本においてももっと再生可能エネルギーは導入出来るのではないか、という感覚を得た。訪問した地域では、価値観に加え経済性など複数の要因を考慮し、そこで人々が納得して科学技術を導入している。日本においても、ドイツの手法をまねするというだけではなく、日本の地域社会が納得する、日本に適した再生可能エネルギーの導入のあり方をもっと模索できるのではないか、と感じたのである。
 国境を越え、違う地域社会を体感した。その経験から学んだ事は、比較するのではなく、むしろ日本という社会を知り、その社会に適したものを追求することの意義である。この感覚や学びは今後、研究に対する情熱と信念を貫く軸として、自分の研究活動の大きな支えになると考えている。