Interviewee: 大阪大学大学院 理学研究科 稲富 桃子(超域 2014年度生)
Interviewer: 大阪大学大学院 工学研究科 堀 啓子(超域 2014年度生)
Texted by: 大阪大学大学院 工学研究科 立山 侑佐(超域 2014年度生)

 超域プログラムの二年次に実施する、卒業後のキャリア展開へとつながる将来像を描くために海外の研究機関・企業・諸団体等を訪問し、情報収集・意見交換・ネットワーク構築を行うことを目的とした海外プレ・インターンシップ(以下、プレインターン。現在の開講科目名は「グローバル・エクスプローラ」)。2015年度に実施した2014年度生も、いろいろな国、団体での活動を行いました(ン レイ ションさん執筆記事)。今回は、理学研究科で進化生物学を研究する稲富桃子さんにインタビューを行い、アメリカのシカゴ大学でのプレインターンについて聞きました。訪問先の選定から交渉、実践までをみずから行わなければならない苦労も伴うこの授業。その中で、彼女はどんな経験をし、どんな学びを得たのでしょうか。

取材日 2015年10月27日

■苦労してつかんだ繋がりから見え始めた将来像

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インタビュアー 堀:プレインターンではどこに行ったの?

稲富:アメリカのシカゴ大学に2週間行ってきたよ。主に魚類の進化について研究をしているShubin研究室を拠点にさせてもらって、海外で働く日本人研究者の方々にインタビューをさせてもらったの。私も将来的には海外で研究することを視野にいれてるんだけど、まったくイメージが持てなくて不安だったから色々と聞いてみようと思って。

:そうなんだ。どんなことが掴めた?

稲富:いろいろあるけど、まずはいろんな境遇で来ている人がいるってことかな。研究員として採用されて来ている人もいれば、企業から任期付きで派遣された駐在員の人もいたりするし、家族の有無もあるし。ある研究員の人が言ってたんだけど、一度海外に来ちゃうと、日本でのポジションが見つからず帰りたくても帰れないことがあるんだって。いままで研究員として働くイメージが強かったんだけど、企業から派遣された研究者として海外で働けば立場も安定して不安も少ないし、私にとっては魅力的な選択だなと感じたかな。それに、だらだらとやらずに時間をくぎって効率的にやっている人たちが多くて、家族の時間とかを大切にしたい人にとっては働きやすい環境だなと思ったよ。

:じゃあ今回のプレインターンを通して、将来のキャリアについてイメージも湧いてきた感じ?

稲富:実際に日本から海外に移り住んで研究してる人の話をたくさん聞いて、やっぱり改めて、海外で働いてみたいなと思った。だから、博士は絶対にとりたいっていう決心が強まったね!日本はまだまだこれからだけど、海外だとポストを得るためには必要だから。来年に予定しているインターン(注)では、海外で研究員として働かせてもらうか、博物館の学芸員あたりで探してみようかなと思ってるよ。
 あとは、人とのつながりってすごく大事なものだと実感できたな。最初はプレインターンの訪問先を決めるのにすごく悩んだんだ。でも、Shubin研究室の日本人研究員の方がすごく親身にインターン内容をアレンジしてくれたの。私一人ではこんなに多くの経験をさせてもらえる機会を掴めなかっただろうし、これからも同じように感じる場面が多くあると思う。ここでできた繋がりはこれからも大事にしていこうと思えたのは今回の学びの一つだね。

■体験で気づく科学の魅力

:インタビュー以外にはどんな活動をしたの?

稲富:研究のアウトリーチ活動をしている施設巡りをしたよ。シカゴ大学の近くには、水族館や博物館、美術館といった文化施設が密集したMuseumCampusって場所があって、そこを中心に見学させてもらったんだ。それと、向こうでお世話になっていたShubin先生は博物館の館長も兼任していて、アウトリーチの意義とかについてインタビューさせてもらったよ。

ミュージアム

:なんでアウトリーチ活動に興味を持ったの?

稲富:「科学の面白さを伝えきれないもどかしさ」を普段感じることが多いからかな。私は今、昆虫の進化の研究をしていて、体の構造とか生物の行動の科学にすごく興味があるんだ。純粋に面白いなと思っているんだけど、その面白さを周りの人に言ってもあまり伝わっていないなと感じることも多くて。

:稲富は超域生の中でもすごく科学が好きなイメージが強いよね。稲富にとって科学の面白さってどこにあるの?

稲富:シンプルだけど、難しい質問だよね。Shubin先生にも、「アウトリーチするには科学とコミュニケーションをとって、面白さや魅力を言語化していかなければいけない」と言われたんだ。でも、私にとって科学って宗教みたいなものなの。ちょっと語弊があるかもしれないんだけど、理屈抜きで信用しているし、その世界観に熱中しているんだ。だから、みんなにもこの面白さをわかってもらいたいと考えているの。

:なんでそういう考えを持つようになったんだろう?

稲富:幼少期から生き物が好きで好きでたまらなかったのが理由かな。勿論昆虫もその一つで、小さな生き物だけど、体の一つ一つがすごく精巧にできていて、その仕組みを知ると「おお!」ってすごく嬉しくなるの。今のところはそれ以外の理由はあまり見つかってないし言葉になってないんだけど、やっぱり科学の面白さをみんなにわかってもらいたいし、これから「私にとっての科学の面白さ」について考えなおそうかなと思ってるよ。海外とかだと、アウトリーチ活動が一つの研究業績になるし、研究資金を獲得する上で大事なことだしね。

:すごく良い気づきだよね。ちなみに、一般の人に科学の面白さを伝えるにはどうすればいいのかな?

稲富:体験をしてもらうのが大事かなと思ってる。私も虫と遊んでいた経験から科学に興味を持つようになったし、そういう原体験って大事だと思うんだ。そういう点では、博物館ってすごく魅力的な場所なんだよ。自分が普段生活をしている環境では生息できない生物や、過去の生物のことを知れたりするし、最近だと体験型の展示も増えてて、展示物との身体的にも精神的にも近い距離感がわくわくするよね。その点、アメリカの博物館は日本と比較してすごく気合が入っている印象で、例えば私が行ったField博物館には、周囲のものが大きくなって、まるで自分が小さな生き物になって生活しているような疑似体験ができる展示があったんだけど、こういった心が揺さぶられる経験って大人にも子供にも必要なことだと思うんだ。Shubin先生も、講義室でスライド見せながら授業するより、実際に博物館に行って授業する方が学生の興味の持ち方が違うって言っていたし。私自身も博物館から影響を受けた一人なんだけど、次世代の科学者を育てる機能が博物館にはあるんだなと再認識させられたな。

ミュージアム2

 アメリカでの2週間の海外プレ・インターンシップの中で、稲富さんは様々な人との対話やつながりを通して研究視野としての視野を広げ、自身の根底にある「科学はおもしろい」という価値観を揺さぶられる経験をしてきた様です。科学に対して人一倍の情熱を傾ける彼女が、これから科学をどう捉え直し、社会にどう発信していくのか。またこの場で語ってくれるだろうその答えに、期待が高まるインタビューでした。

(注)博士後期課程でのインターン:「超域イノベーション実践」の活動の一つとして、実施することが推奨される(2014年度生までは必修)。それぞれの関心や専門に応じて、国内外を問わず、企業・大学・非営利団体・政府系期間・国際機関などの組織を活動の舞台として選び、課題に対する解決策の立案や実装などの活動を行う。