Texted BY:大阪大学大学院人間科学研究科 金南 咲季(13年度生)

 2014年は、日本のOECD加盟50周年にあたる節目の年である。OECD(経済協力開発機構)は、先進34カ国からなり、世界最大の「行動するシンクタンク」と呼ばれる国際機関である。経済・社会に関わる広範な課題についての分析や、加盟国間のベスト・プラクティスの共有を通じて、各国の経済や社会福祉の向上に向けた政策を推進している。 2014年4月9日、加盟50周年を記念したシンポジウム「アジアとともに-半世紀後の未来に向けて」(主催:外務省、OECD、日本経済研究センター)が東京で開催された。大阪大学からは、2012年度生の 佐々木 周作(経済学研究科)、永野 満大(国際公共政策研究科)、瀧本 裕美子(人間科学研究科)、2013年度生の金南 咲季(人間科学研究科)、砂金 学(理学研究科)、高田 一輝(工学研究科)の6名が参加した。このうち、佐々木、永野、瀧本、砂金、金南の5名がOECD Student Ambassadorとして活動している(参照:OECD Student Ambassadorプログラムに参加するにあたって)。

 

シンポジウムおよびイベント概要

 シンポジウムでは、国内外の各界の第一線で活躍する方々がパネリストとして登壇し、 (1)「50年後の世界-今取り組むべき課題は何か」 (2)「OECDと東南アジア-橋渡し役としての日本」 (3)「しなやかで強靭(レジリエント)な経済の構築に向けて-OECDにおける日本の役割とOECDの将来-」 という3つのテーマに沿って、日本がとるべきこれからの政策の指針や、存在感が高まるアジア諸国とOECDとの関係強化について、多角的な視点から議論が行われた。

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 シンポジウムの後には、引き続き同会場で開催された学生イベントに出席した。このイベントでは、「これからの日本に必要なグローバル人材の育成」というテーマのもと、東京大学、慶応大学、早稲田大学、東京外国語大学、そして我々大阪大学の計5大学による報告が行われ、その後、フロア全体でディスカッションの場がもたれた。私たちは、日本が課題先進国として抱える高齢化の問題を切り口に、グローバル人材を「他国の制度・サービスを経済・社会・文化的背景を考慮しながら輸出入できる存在」として定義し、人類学的手法や課題解決学習(PBL)を取り入れた人材育成方法の提案を行った。他大学からは、自文化の理解と発信、留学生との継続的な交流、アカデミアと企業や公的機関をつなぐ新たな博士課程人材の育成、コミュニケーション能力の重要性など様々な議題が提起され、学生、社会人が一体となった活発な議論が行われた。

”Next Generation”にできること

 シンポジウムと学生イベントでの多岐に渡る話題や議論の一つ一つをここで紹介することはできないが、それらに通底して言えるのは、日本をはじめOECD加盟各国は、ある大きなパラダイムへと移行を始めているということである。それは、これまで自明視されてきた境域に疑問を呈し、それらを再編成、あるいは、新たに結合していくことで課題解決を進めていこうという社会的な動きである。私たちの所属する「超域イノベーションプログラム」もこうした趨勢に位置づく大学院改革の挑戦であるが、国際機関という組織レベルにおいても、いまこうした力学が働いているということに、新たな発見があった。

“You are the Next Generation.”あなたたちは「次世代」だ。

 シンポジウム終了後、 アンヘル・グリアOECD事務総長と話す機会を得た。“You are the Next Generation.” このグリア事務総長の言葉は、私たちに「当事者」であるという自覚を促す激励の言葉であった。私たちは、否が応でも、次世代を生きる立場にある。高齢化や財政問題、雇用、移民問題、格差などの、シンポジウムでの広範な議題からも分かるように、私たちの社会は、未来を楽観的に構えてはいられない状況にある。こうした状況を前に、“Next Generation”は何をすべきなのか。

 There are always new discoveries in Japan. However they are often not connected to the next developments. There seems to be a “missing link.”「日本には“発見”はあるのに、それが次へとつながっていかない。そこには、ミッシング・リンク(間隙)があるようだ。

 教育と労働市場の改革に関する議論のなかで、「日本は、研究開発への投資は低くないにもかかわらず、そこで達成された成果が、商業化や成長のエンジンに必ずしも結びついていない。」との指摘が行われていた。つまり、発見が「発見」に終わってしまっているのである。
 この指摘は、商業化や成長に関する話に限らず、多くの場面にも当てはまるように思える。私自身を振り返っても、普段、問題意識や現状に関する議論や分析に比重を置きがちで、実際に具体化させていく過程については、曖昧な回答しか出せないことが多い。私たちNext Generationに求められているのは、物事の把握や指摘で終わらせるのではなく、課題解決に向けたプロセスを探究し、その適切な駆動を通じて、発見と実践の間に生じている間隙(missing link)を埋めていくことだと考える。

“Growth for what purpose?” 何のための成長か?

 そして私がもう一つ、Next Generationにとって重要だと感じることは、議論の俎上にも挙げられていた、「何のためかを問うこと」である。成長やイノベーション、グローバル人材をどのように生み出していくのか、という観点に立った議論のみでなく、なぜそれらが必要なのか、何のための成長やイノベーション、グローバル人材なのかを問い、議論を尽くすことは、これらの言葉が大衆化したいま、より一層重要になっているように思う。手段を目的化してしまわないよう自覚的でありたい。

 今年度、私たちはOECD Student Ambassadorとして、学内でのOECDへの関心を高めるための活動を展開すべく、様々な取り組みを行う。具体的には、OECDの出版物のデータベース「iLibrary」の活用法を含むアカデミックな講習会(7月31日開催)や、座談会形式のキャリア・セミナー、映像を用いた学内広報活動、OECD加盟34か国の留学生との学内企画、OECDを模した政策提言プロセスを体験するワークショップなどの開催に向けて現在準備を進めている。今後の展開やメンバーの報告にも注目いただければ幸いである。