スペイン高等科学研究院の一機関、Laboratorio de Arqueología y Arquitectura de la Ciudadにおける発掘・文献調査及び観光・文化財保護両面に関する課題解決(1期生 文学研究科・文化表現論専攻 佐藤 紗良)

受入れ機関名:LAAC(Laboratorio de Arqueología y Arquitectura de la Ciudad)
実施期間:2015年11月18日~2016年2月11日

 執筆者の現在の研究対象はアルハンブラ宮殿の修復作業とその修復史である。社会的課題解決がテーマである本授業において、「自身の研究を生かした社会的課題解決」を目指すことを目標とし、その活動方法を考えた。

 グラナダには世界遺産であるアルハンブラ宮殿がある。しかしそこには「観光」と「文化遺産保護」という矛盾した対立項が存在する。修復概念は時代ごとに変化してきたが、他国とのアクセスがより容易になった現在、その対立は非常に厳しいものとなっている。そこで、執筆者は本授業において、科学研究所のメンバーとともに、観光による街の活性化、修復のための収入と文化財保護の両面で、どのように折り合いをつけていくのかを考察していくことを主要な活動とした。そのために現在彼らが進めているALMUNIAといいう歴史・考古学研究プロジェクトに参加し、新たな発見及び研究分野に貢献することを目標とした。

 その際、研究への態度の差異を如実に感じることとなった。同じ部屋に違うチームが散在し、個人の机の場所も明確に決まっておらず、勤務時間中ずっと一つのプロジェクトにかかわるわけでもなかった。個人的な研究だけを進めている学生もおり、私はチーム作業の人たちと個人研究との間の立場なので、動き方が分からず、やり方に慣れるのに時間がかかった。プロジェクト自体も不明確なところが多くプロジェクトの申請書を読ませてもらい、観光との兼ね合いの模索という内容が含まれていることは確認した。ただし本課題に取り組むにあたって適切なプロジェクトであるということは最初の段階で確認できたものの、プロジェクト自体の進捗状況が遅く、私が滞在した三ヶ月では全く進まなかった。それはプロジェクトが承認されたばかりであったこと、クリスマス休暇でメンバーが一ヶ月間揃わなかったこと、基本的に時間にルーズであまり研究室にも来ないことなどが理由であった。

 タイトルで惹かれた方には大変恐縮であるが、本渡航において私は全く別のことを学んだ。特に文化背景や言語が違うこのチームで、目標の再設定や、どのように自身の作業を進めるか、などの考え直しは常に行わなければならなかったし、メンバーへの積極的で頻繁なコンタクトが必要であったし、遠慮や語学への不安も忘れなければならなかった。しかしそのようなアクシデントはどのようなプロジェクトにおいても起こり得る。今まで個人的に文献を読み、作品に触れる研究しかして来なかった私にとって、状況に応じて柔軟に短期目標と長期目標を設定し直し、プロジェクトにおける自身の研究の位置付けや自身の立場を把握するといった視点を養うきっかけとなったのは意義深かった。研究面以外でもコネクション作りを積極的に行い、バル、深夜のコンサートなどスペイン文化に溶け込むようにも務めた。フィールドワークにおいて非常に重要な関係性の構築でもあるし、それ以前に楽しかった。

 したがってプロジェクト自体に、そしてタイトルにかかわるような成果ではなく、むしろ私の未来における貢献への期待という形で活動を終えることになったが、そのための土台は既に作られたと言える。その結果、この後私は再びこの機関で二ヶ月間研究をさせてもらうこともでき、スペインにおける自身の活動拠点を得たのである。

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考古学・建築の授業。
建築を図面に落としていく作業の前段階。
他学生の専門分野であったが参加させてもらえた。
この他にもグラナダ大学の授業も聴講させてもらった。

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LAACの研究室。
12月15日には既に半分以上のメンバーが休暇に入っていた。

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入り浸っていた図書館。
この図書館自体が文化財。
毎日来ていたのは私だけだったが、そのお陰で有効な資料の紹介や積極的な援助などを受けることができた。
観光客にジロジロ見られながら勉強していた。