日本のパブリック・ヘルスの現場において、経済学・経営学に求められる意義と役割、およびその実践(1期生 経済学研究科・経済学専攻 村上 裕美)

受入れ機関名:NPO法人 Initiative for Social & Public Health および University of Glasgow, Adam Smith Business School
実施期間:2015年9月14日〜2016年3月25日

 経済学理論と現実社会が求める知見との関係は、大きな意味での学問と一般知性の問題として、今現在の私の専門研究テーマである、信用と貨幣、産業、そして技術という問題に深く関わっている。経済学が実践にどのように生きるかという問題を、ビジネススクールおよびNPO法人での業務活動を通じて考察することで、自らが専門研究者を目指す場合においても求められる、社会への提言、学問教育の基本姿勢、政策提言や経済予測といった現実問題への取り組みに向けた、より多角的な視野の獲得を目指して活動を行った。

 本活動は、NPO法人 Initiative for Social & Public Health(略称:iSPH)様を主要受け入れ機関とするものであるが、その事前準備活動として、グラスゴー大学アダム・スミスビジネススクール、林研究室へ半月ほど滞在した。受入れをご許可頂いた林貴志教授には、プレ・インターンシップ時にも大変お世話になっているが、今回も、社会厚生の配分に関する公平性と効率性の両立・非両立問題を検討する理論的手法をご教授頂き、社会保障や稀少な医療資源の配分について、経済学的なフレームワークを持って考察する重要な視点を得ることができた。

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 続いて主たる受入れ機関のNPO法人iSPH様での活動についてであるが、iSPH様は、医療分野、とりわけ公衆衛生学の専門家集団であり、メンバーの全員が、研究者や医師等、専門家としての本業を持ちながら活動されている。そのため、本活動も iSPH様の活動状況に沿って、その都度事務所にお伺いする形で実施した。理事会や意見交換会への参加とその内容の記録、HP上での広報活動や勉強会の開催に向けた準備作業、神奈川県のメディカル・イノベーションスクール設立に向けた基礎調査プロジェクトへの参加が、その具体的な内容として挙げられる。これらの活動を通じ、専門家としての本業を持ちながらの法人運営について、実際の活動現場とその規模を学ばせて頂き、NPO法人という形式を通じた社会への学問知の還元について今後の展望を模索することができた。

 今回の活動を通して印象に残っているのは、iSPH会長の渡邊先生の、「医療という誰もに関わる問題について、専門家と一般の方をつなぐ“のりしろ”として活動を行うのが iSPHの役割」という言葉である。高度の専門分化・多様化が進み、多分野にわたる複雑な諸問題に対応することが極めて困難な状況となっている現代社会において、“のりしろ”の必要性は一層増大していくと考えられる。即時的・短期的な課題解決に取り組むことも大切ではあるが、“のりしろ”という言葉で表されるような取り組みを、継続的に行っていくことが最も重要なのではないかと感じた、イノベーション実践であった。