TEXT BY 生川 佳奈
研究科:生命機能研究科
専攻:生命機能専攻
専門分野:免疫機能統御学

固定観念を粉砕したフィールド・スタディ

 今回の海外実習は、プレ・インターンシップと異なり、現地の学生と交流することからの学びが大きかった。マニラ、セブで触れ合った学生の持つ価値観、思想は日本の学生とは全く異なっていたことが印象深い。所得層においては、カースト制度のように、階級や格差は厳然と存在していたのを目の当たりにした。フィリピン海外実習における“aha (なるほどを表す感嘆詞) moment”は、宗教による思考の違い、所得格差により引き起こされる社会状況である。
 同年代のフィリピン学生との違いは、宗教である。フィリピン学生と社会問題を議論したが、出される意見の大部分が宗教の教えに基づいていた。彼らの思想、主張、選択の全ての根底にカトリックの教えが存在し、1人の個体に占める宗教の割合の大きさには、目を見張るものがあった。共通理念があるために、お互い容易に共感し合えるといった良い面もある反面、近代化や政治、健康と宗教観念との間にジレンマが生じていることを知った。
 フィリピンでは、人口の1割が富裕層、1割強が中流層、そして残りの8割が貧困層にあたる。この富裕層は、スペイン占領下時代からの大地主の家系や、華僑が含まれる。プレ・インターンシップでもフィリピンを訪れていたため、他の超域学生よりも、様々な地域における所得格差の現状を多く観察し、内情を知ることができた。フィリピンで大学に通える学生は、裕福であるか、非常に優秀で奨学金を得ているかのどちらかしかない。大学入学の狭き門をクリアしても、就職活動が上手くいくかどうかはまた別の問題である。大学卒業後に就職することはできず、世界的にも有名なファストフード店の正社員にもなれない。このように、優秀であるかコネがあるかで、就職は決定する。所得層の違いで、生まれながらにしてキャリアはほぼ決定し、貧困層の人々がどのような生活をしているのを認識せずに、同じランクの所得層の人とのみ交流する確立した社会を知った。
 フィリピンは様々な国による占領下時代や交易の影響で、文化が入り交じり、時代ごとに文化が変化し、その変化を辿ると、文化の軌跡を観察することができた。同じアジアでも気候や歴史、地理的環境などの違いで、食文化や思想、価値観などに大きな相違が生まれることを肌で体感した。実際現地を訪れ、交流することで、今自分が持っている当たり前は、限られた条件下でしか成り立たないものであることを学んだ。議論する際に、自身の物差しを共有コンテンツとして強要することは間違っており、始めにお互いの物差しの相違を理解し合うことが必須であることを習得した。このフィールド・スタディでは、日本以外の国は、日本とは全く異なることを改めて再認識する海外実習となった。

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フィリピン アテネオ・デ・マニラの学生との集合写真