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TEXT BY 下 剛典
研究科:薬学研究科
専攻:創成薬学専攻
専門分野:核酸医薬品

 私は海外フィールドスタディのクック諸島組のメンバーで、三田先生、グレッグ先生、上田先生、超域の履修生5名と共に、クック諸島・マンガイア島、クック諸島ラロトンガ島、ニュージーランド・オークランドを訪問しました。本記事においては特に印象に残っている、①マンガイア島でのホームステイ②マンガイア島で実施した薬用植物の調査に関して記したいと思います。

【①マンガイア島のホームステイ】

 クック諸島マンガイア島は一周20~30km程の小さな島です。人口も数百名程度、自然豊かな島で、主な産業は漁業、農業です。観光客もほとんどおらず、ましてや日本人が訪問する事自体、非常に珍しい事だそうでした。マンガイア島では履修生全員が一人ずつ分かれて、現地の各家庭でホームステイを行いました。私はホストファザー、ホストマザー及び彼らの孫2人の4人家族の下に滞在しました。
 ホストファザーは元漁師で、現在は石材・木材加工業、建築業及び教会の神父と幅広く仕事をなさっている方でした。滞在中はマオリ族の伝統的な文化を沢山教えて貰いました。例えば、生魚の風変わりな食べ方(日本で言えば蕎麦のように大胆に音を鳴らして食べる)や、伝統的な工芸品(木材でできた打楽器や槍、1 m程の木製塔(会議中である事を示す置物))などを紹介してもらいました。また記念に石製の置物や、打楽器を頂きました。
 ホストマザーは元教師で、現在は非常勤で授業を実施しているとの事でした。学校の子供たちへマオリの文化を教えており、クック系マオリの文化を後世に残そうと努力されていました。また伝統生薬に関する知識が豊富で、後で述べますが数多くの種類の薬草に関して教えて貰いました。孫2人は12歳と10歳で、驚くべき事に、2人は祖父母に代わり、しっかりと家事をこなしていました。ホストファミリーの方針なのか、料理、掃除、農作業の手伝いなど、様々な仕事を子供たちに任せ、子供たちもそれが当然という風にこなしている姿が印象的でした。彼らの両親はオーストラリアで仕事をしており、子供達をマンガイア島の豊かな自然の中で育てたいと考え、2人を送ったそうです。子供達に日本から持ち込んだ、お箸をプレゼントすると、事前に日本の文化の一つとしてお箸について学んでいたらしく、私の滞在中は毎食お箸で食事を摂ろうとしていました。またカップうどんや醤油、ポン酢を持って行っていたのですが、子供達の口に合ったようで簡単に平らげていた点も印象的です。
 マンガイア島での生活は毎日がこれまで経験した事の無いものばかりでした。サンゴ礁のリーフ上での釣り、野生のヤギのハンティング、洞窟内巡り、家畜えさ用のヤシの実集めとヤシの実割り等です。以上の用に記すと、一見して日本とかなり異なった生活を送っている様に思えるマンガイアの人々ですが、家庭内での活動は極めて現代的でした。特に、通信の面では日本とさほど違いはありませんでした。テレビがあり、ニュージーランド経由でBBCニュースを見る事もできました。また、インターネット、固定・携帯電話も、テレビゲームもあり、子供達も世界情勢に関して沢山知っている様子でした。マンガイア島で観たBBC放送で、日本の東北地方の猟師が、野生のイノシシを駆除しているというニュースを見た覚えが有るほどです。
 マンガイア島でのホームステイは島にある学校(小、中、高全ての学生が在籍している)の関係者の方がコーディネートしてくださっていた経緯もあり、たくさんの子供たちと触れ合う機会がありました。特にホームステイ先の教会に通う子供達とは毎日のように顔を合わせ、一緒に遊んだり、勉強したりしました。皆それぞれ将来の夢を持っており、そのほとんどが島外での仕事、特にパイロットやスチュワーデスだった点も印象的でした。
 私がマンガイア島において得た最大の収穫は、自分とは何かを見つめ直す事ができた点です。自身のアイデンティティであるはずの専門知識(薬学・核酸化学)が全く通用しないマンガイア島において、自分を表現できる物は他に何があるかを必死で考えました。振り返ってみると、大学院入学からこれまで専門を究める事に専念してきたが為に、それ以外の力を置き去りにしてきたように思います。これからは人間的にも深めていきたいと思いました。


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【②マンガイア島での薬用植物調査】

 私はかねてより薬用植物に関し非常に興味があり、本研修の機会を利用して簡単なフィールドワーク調査を実施しました。以下にその成果の一部を紹介します。
 クック諸島は熱帯気候に分類され、日本との植生にも大きな違いが見られます。マンガイア島も同様で、熱帯植物が沢山観察できました。日本に住む私たちにとって、熱帯の植物は見慣れない物ばかりで難しいイメージですが、フルーツだけは例外でしょう。バナナ、パパイア、キウイ、オレンジ、グレープフルーツ、マンゴーやスターフルーツなど沢山の熱帯系果実を挙げることができます。マンガイア島においては、先に挙げた全ての果物が自生あるいは、家庭で栽培されており、好きな時に好きなだけ食べる事ができる楽園の様な状況です。調査の結果、これら熱帯系果実も健康目的で利用される事が多いという事がわかりました。例えば、キウイは胃の状態を良好に保つ作用があると考えられており、入院患者の病院食に利用される事が多いとのことです。
 また果実以外にも数多くの薬用植物が利用されている事を調査してきました。現地の住民の方の協力により、総計30種近くの薬用植物を観察する事、それらの利用方法を学ぶ事ができ、とても充実した内容となりました。
 薬用植物以外にも健康目的で利用される自然資源に関して学んできました。例えば、島に存在する湧水のたまり場(海岸沿いにある岩場のくぼみに淡水・冷水の湧水泉がある)は妊婦の腰痛に効能があるという話や、ある種のナマコには乳がんの腫瘍増殖抑制作用がある等、興味深い話を沢山聞く事ができました。
 更に、地元の皆さんを招待して開催した謝恩パーティにおいては、マンガイア島にて得た薬用植物の知識を、覚えたてのマオリ語でプレゼンテーションさせてもらう等、非常に貴重な経験をする事ができました。


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【まとめ】

 本研修では日本とは全く異なる環境で暮らすマンガイア島の人々と沢山出会う機会に恵まれました。現地を訪れる直前まで、現地の方と理解し合えるか不安で仕方なかったですが、実際に会ってみると会話だけでなく、共に食事を摂り、時には歌い、あるいは踊るなど様々な形でコミュニケーションを取る事を通じて、互いの気持ちを理解する事ができました。
 最後に、ホームステイ先のファミリー、マンガイア島のみなさんに感謝を表したいと思います。また本研修をデザインしてくださった大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムの三田先生、一橋大学のグレッグ先生、大阪大学GLOCOLの上田先生、植物調査に際し、適切なアドバイスを頂いた、大阪大学大学院薬学研究科の高橋京子先生に厚く御礼申し上げます。