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TEXT BY 武居 弘泰
研究科:工学研究科
専攻:精密科学・応用物理学専攻
専門分野:プラズマ工学

 ブータンを訪問した中で最も印象に残ったのは、農家で2日間の現地調査を行ったことだった。ブータンと日本の暮らしの違いを考察するため、直接農家を訪問し人々にインタビューを行い、家の内外の様子をつぶさに観察することが目的だった。私が訪問した農家は首都ティンプーから車で約一時間走ったところにある。途中、日本では決して味わえないような凸凹道を通る。あまりにも揺れるため、逆に笑えてきてしまうほどである。
 調査地の農家に着くと、一家の主人が出迎えてくれた。まず家族構成などの基本的な情報を聞き出そうとするのだが、早くもつまずいた。訪れた家族構成は、祖父母、兄弟姉妹、妹の夫、甥、姪・・・と非常に複雑で、しかも家族は全部で9人と聞いていたが、お昼ごはんを食べるときにはなぜか11人に増えており、訳が分からない。家の鍵を占めるといった概念も無さそうであった。ちなみに、主人の嫁は喧嘩中で実家に帰っているとの事だった。ブータンは大家族が普通であり、私のように日本のごく平凡な核家族で育った者にはカルチャーショックであった。
fs_takei_02  また、休日の昼間には、近隣に住む男たちが10人以上集まって”クル”と呼ばれるブータンのダーツを楽しんでいる。ダーツといっても日本でも行われるような室内競技のものではなく、野外で行われ、的までは20mほど距離があり、投げ矢と呼んだほうがイメージ的には近い。ダーツが的に当たったときは、歌とともにダンスを踊る。この時は職業も年齢も関係なく、みな純粋にゲームを楽しむのである。そして、ダーツに興じる男たちの家族は、近くにレジャーシートを敷いてご飯を食べながら観戦するのである。私も実際に参加し、現地の人と一緒に歌いながら踊ったが、えも言われぬ一体感があり日本では決して味わえない非日常の空間であった。
 山や田畑は日本の田舎に似ているところがある。思わず長野の祖父母の家を思い出してしまうような風景の中で感じたことは、家族や近隣との非常に強い人間関係の中でお互い助け合い生活を営んでいくことが、ブータンの農村の人々にとっては当たり前のことなのだが、それこそがブータンの幸せの要因の一つなのだろうということである。ブータンの人々は、皆必ずしも幸せだと感じているわけではなく、課題もたくさん抱えているが、日本ではすでに失われているブータンの良いところを見出すことができた。

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