fs_sato_01

TEXT BY 佐藤 紗良
研究科:文学研究科
専攻:文化表現論専攻美学専修
専門分野:イスラム庭園

 神秘の国。幸福の国。「ブータン」という言葉の第一印象はそんなところだろう。私も実際に行ってみるまではそういう幻想を抱いていた。しかしそのイメージは一変した。それらの短い単語が想像させるよりも遥かに人間らしく厳しくそして複雑な国がそこにはあった。
 このフィールドワークで我々が行った取り組みは現地の農村に赴き気づかれていない現地の魅力を発見し、伝えることであった。現地の大学での発表も行った。我々が発見した魅力は人々のinteractiveだった。ブータンには人が集まる文化がある。労働・宗教・遊び・スポーツ。生活に密着するそれらの場所には必ず人がいる。彼らの生活は信頼と相互協力から成り立っている。それらはマンションで隣に住んでいる人の顔も年齢も、もしかしたら性別すらも知らない我々から見ると、大きな驚きだった。核家族化が進み孤独死が問題となっている現代の日本と較べて何と大きな違いだろう。遠い親戚と共に一つの家に住み、交換労働として近所の家に行き、家族のようにご飯を食べる。そこには他人を他人と思わない温かさがあった。
 更に衣食住と宗教は私にとって刺激的だった。伝統衣装の色の組み合わせ方はまさにブータン人特有である。目の冷めるような青と濃いピンクの組み合わせは彼らの浅黒い肌に映え、着物とは全然違う発展を遂げたのだと分かる。風土や気候によってこんなにも色使いが変わるのかと改めて思ったのは彼らの風貌が我々と近いからだろう。欧米では文化があまりにも違う為意識されなかったこの差異が同じアジアの国だと際立って感じられるのは面白い。また我々と違って仏教は彼らの生活の一部であった。狭い寺院の中に入ると音楽が響き渡り、人々が地面に身を投げ出して五体倒置している。彼らは生きとし生けるもの全てに祈りを捧げる。僧が唱える念仏は高くなり低くなり我々を包む。陶酔するような宗教の強さを感じた。高僧の澄んだオーラを身近に浴びることができる機会もあった。心が洗われるようでどれも筆舌に尽くし難い貴重な体験だった。