TEXT BY 佐々木 周作
研究科:国際公共政策研究科
専攻:比較公共政策専攻
専門分野:オンライン寄付行動の実証分析

 航空機で山間を縫いながらブータンの空港に降り立ち、車で少し移動する内に鼻がむず痒くなり始めた。花粉症だ。日本にいる間に伝え聞いていたブータンの天候は、大雪。冬の寒さがまだ続いているなら、さすがに花粉も飛ばないだろうと鷹をくくり、例年なら大量に薬を処方してもらう身であるにも関わらず、今年は病院にすら行っていなかった。土曜日、日曜日を挟む中で雪は溶け、気温は10℃以上に上がっており、標高が高いながらも緯度自体は沖縄と同じという地理関係を身体が一気に実感していく。ぐずり始めた鼻をすすりながら、このままだと気が散って、ブータンでのこれからの活動に集中できないのではないかと不安を感じた。

 しかし、そんな心配は無用だった。
 ブータンで過ごす日々は、些細な生理現象を忘れさせてくれるくらい、とにかく濃かったのだ。それは、スケジュールが詰まっていたという意味でもあるし、内容が充実していたという意味でももちろんある。幸福度指標を自ら作ったというダショー・カルマウラ氏は、なぜ幸福度を指標化し、国の方針を包括させる形で標榜するのか、について約束の時間を過ぎてまで丁寧に語ってくださった。訪問先の方々の語りそれぞれに、ブータンの生活と仏教の結びつきが色濃く見えるも、その意味合いを掴むことは難しく、農村でのフィールドワークを通じながら肌感覚で理解していった。

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 今回のフィールド・スタディで最も印象に残っているのは、実は「日本」に関することである。ブータンでは幸福度を指標化し、国家方針に位置づけられている。「それでは、日本の場合はどうですか?」ブータンでは家族との関係が重要とされ、家族や親類と近くに住むことから幸福を感じている。「それでは、日本の場合はどうですか?」
 直接問い返されたにせよ、そうでないにせよ、私たちが答えられることは少なかった。「最近、幸福度は日本でも話題になっており、政策に採り入れようと検討されている。」「日本では核家族化が進み、家族関係・親戚関係の希薄化が進んでいる。」新聞や雑誌、インターネットで見聞きした言葉は、一見本当らしいように思えるが、そのままだと他人に与えられる情報がほとんど備わっていない。その程度の知識だけでは、日本の大学院生として海外に行って伝えられることは何も無いのだ。

 この学びを次回に活かすことがとにかく重要だ。渡航先、訪問先の情報を調べ、求めるだけでなく、日本の現状についても調べ、相手に提供できるよう入念に準備しよう。もちろん、各種薬は念のため持っていく方がきっと良い。