授業名:海外フィールド・スタディ
担当教員:三田貴(未来戦略機構)
金森サヤ子(COデザインセンター)
Texted by:人間科学研究科 久保田麻友(2017年度生)

■はじめに

Alli!※1 私たち2017年度生(6期生)の8名は、9月22日から10月4日にかけて、太平洋に浮かぶ島国パラオを訪れました。私たちはパラオの各州を移動しながら、各種機関・施設の訪問やホームステイを行い、さらにグアムに滞在するパラオ人の方々とも交流しました。フィールド・スタディを通して、私は様々な「瞬間」に触れました。当たり前だと思っていたことが当たり前でないことに気づいた瞬間、視野が広がった瞬間、人と人のつながりの大切さを感じた瞬間……頭では理解していても実際に体験しないと実感できない感覚があります。それこそが、私が出会った貴重な「瞬間」だったのです。

■「経験すること」の大切さ

 私は教育学部出身で、現在は難民の教育について研究しており、子どもの教育全般に関心を持っています。そこで旧首都コロール州における個人活動では公立小学校への訪問を行いました。パラオの事前学習で既に私はカリキュラムや教科書、教員の指導スキル、学力に課題があるという情報を得ていたため、パラオの学校教育全体の課題は学習に関連した領域にあると考えていました。しかし現地のNGOの方から、近年パラオでは子どもの肥満も大きな問題とされていることを伺いました。統治時代の影響により、多くの食べ物がアメリカナイズされていることも要因の一つです。それに伴い学校や各機関が対策を練るようになり、給食の献立や体育の授業の改善にも取り組まれているとのことでした。お話を伺う中で、この課題は、学校の先生だけでなく、パラオの人たちが共通認識として持っているものであると感じました。

 このように、外部から「学校」というテーマを取り上げたときには、子どもの学力に直接かかわる課題に意識を向けがちです。しかし実際に現地を訪れてみて、本当の課題は子どもたちの生活に関わるところにあるのだということが分かりました。特にパラオのような小さな国では日本にいる私たちの手元に入ってくる情報もある程度切り取られたものになります。情報を知識としてインプットしつつ、実際に訪れて体験しないと分からないものがあります。相手から距離を置いた客観的な「鳥の目の視点」だけではなく、実際に訪れて細部を見る「虫の目の視点」からある対象を見た瞬間、もう一歩深く相手を理解できるのだということが分かりました。

■自分の価値観を基準にはできない

 私はパラオの学校を見学する際、無意識のうちに日本の常識や考え方を基準とし、日本と比較して判断している側面がありました。しかしいざパラオを訪れたとき、本当にパラオの教育を理解するために必要なのは、「パラオにおけるパラオの教育」として向き合う姿勢でした。パラオの学校の工夫点や長所、改善案に目を向けるようになった瞬間、そのことに気づかされたのです。私の頭の中では、日本で取り上げられている教育問題がまず前提となり、無意識に「それらの課題はパラオではどうなのか」と考えることが中心になっていました。しかし、「パラオの学校そのものを見る」という視点を持つことにより、工夫されている点や今後の構想にも注目できるようになりました。

 ある国の課題を考える上で、判断する視点や思考において日本や自分自身を基準にする意識を一度横に置き、その国の歴史や文化、価値観を念頭に置いて考えることが大切であると実感できました。そうすることで、その国の課題だけではなく、未来に向けた希望のある取り組みを考えることができるのではないかと思いました。

■生活をともにすること

 9月28日から10月2日までの4泊のホームステイを通して、パラオにおける生活文化を直接肌で感じることができました。一日中生活をともにしていると日本の文化と異なる点だけではなく、日本の文化を垣間見る瞬間も多くありました。パラオは、終戦まで日本に統治されていました。そのため、日本語や日本の文化が所々に残っています。私のホストマザーは、いくつかの日本の童謡を知っており、毎晩それを歌ってくれました。また、日本語と知らずに使われている言葉もありました。

 一方で、日本には見られない、パラオ独自の文化も存在します。私が一番興味深いと感じたことは、食べ物をシェアする文化です。例えば、10月1日の独立記念日に打ち上げ花火を見に海岸へ行ったとき、集まった人が各々一つの食べ物を持ち寄り、その場にいる人たちとシェアしていました。彼らは見知らぬ私にもホットドッグを分けてくれました。この文化は、食事のシェアを通して、そのときその場にいる人たちと、笑顔と時間を共有することが本当の目的なのだろうと思います。日本では、周囲に気を使ったり空気を読んだりと、心の底から笑顔でいることができないこともあります。しかし、パラオではあらゆる場面において、「今を生きること」、「今を楽しむこと」を重視しているのです。

 日本の影響を受けたパラオの文化だけではなく、パラオ独自の文化を経験できたことは私にとって意義深いものでした。統治された時代の影響を受けつつも、独自の文化を大切に残していることこそ、今を生き、楽しむパラオの人々が持つ一つの特性と言えるのではないかと思います。

■異なる分野の人と一つの国を見ること

 パラオを訪れた超域生は6期生のうちの半数で、専門分野は看護学、教育学、法学、政治学、経済学、社会学など、多様でした。このメンバーでパラオという国を見ることを通して、関心分野や視野が広がり、新たな気づきを得ることができたと感じています。例えば小学校で子どもに一人一台支給されているタブレットは、米国との間で結ばれている自由連合盟約(コンパクト)によるものであるとか、子どもと食の課題においては、保健省が教育省と連携して、5年後を目標とした政策が実施されていることなど…。他分野の人と活動する上で、そうした気づきはあらゆる場面で得られることですが、今回は対象がパラオという一つの小さな国であったことが重要です。パラオは、人口約2万人、面積は458㎢という小さな国です。人口は大阪府の約4分の1、面積は日本で一番小さい香川県の約4分の1に相当します。そんな規模の小さな国だからこそ、政治、経済、教育、医療などのつながりが捉えやすく、また、他分野に関心を持つことができるのだと、私は思います。他分野の人と小さな国を見て語り合うことで、一つ一つの独立した問題がどこかでつながっていることを学ぶことができ、その瞬間に、普段は考えもしないようなことが自分の研究ともつながっているのだということが分かるのです。

■おわりに

 パラオには、美しい自然やおいしい食べ物、人々の温かい笑顔とゆったりと流れる時間があります。私にとってパラオで過ごした日々は自分自身を見つめなおす時間でした。渡航前は、パラオの問題にばかり目が行きがちでしたが、実際に訪れてみて、自分の目で国や人を見ること、その人たちの思いを感じることが重要であり、それを通してパラオの素晴らしいところが見えてくるのだと感じました。また、人と人とが関わる場において、何か新しいことに気づいた瞬間、普段なら気に留めないことにありがたさを感じた瞬間など、その貴重な「瞬間」を大切にしていくことが、私たちの思考や価値観に影響を与え、新たな発想につながるのではないかと感じています。頭で理解するだけでは足りない、その足りない何かに出会えた「瞬間」、実践できた「瞬間」、実際に経験した感覚が今後の糧になっていくのだと思います。パラオで出会った方々と共有できた時間が、私にとっても、パラオの方々にとっても、今後の糧になることを願っています。最後になりますが、海外フィールド・スタディを通して出会ったすべての方に感謝の意を表し、レポートを締めくくります。Sulang!※2

※1 パラオ語で「こんにちは」
※2 パラオ語で「ありがとう」