vol.3

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視察を経て感じたこと

多様な人々が集まればイノベーションが生まれる?1
~藤田朋美の場合~

“理系の研究室”のような雰囲気

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 実際に訪問したファブラボの店内は想像したものと少し違う印象を受けた。移動するのも大変なくらいに機器や本棚の並ぶ狭い店内、そこには通常のカフェのようなテーブルはなく、勉強机のような机が1つ、そしてその隣にリビングにあるような低いテーブルが1つおかれていた。椅子は机の周りとあとはソファーしかない。それぞれに来た人々が適当に空いているところに座っていた。これでは「相席」をする他に座る方法はない。

 到着してまず運営者である相部範之さんの話を聞かせていただくことができた。FabLab つくばの経営について、今後の展望などについていろいろなお話を聞かせていただいたが、私の最も気になった点は以下の点である。

ファブラボとは何か

 FabLab つくばは相部さんの専門である電子工作が中心のファブラボである。しかし、各ファブラボによってその経営や利用形態などまったく異なっているため、何を持ってファブラボと名乗っているのか疑問を持っていた。相部さんの答えは思いのほかシンプルなもので「ファブラボの既存のネットワークに入りたいかどうか」とのことだった。そしてファブラボになって最も変わったことは“多様性”だと言う。ファブラボは年に1回、世界会議も開かれている。そこには相部さんのような電子工作が専門の人もいれば、工作、建築、デザインと様々な「モノづくり」の専門家が集まる。「もの作り」の専門家と一言に言ってもデザインと電子工作は今までなかなか接点のなかった分野同士であり、ファブラボになったからこそ今後一緒に仕事をする可能性も出てきたのだと相部さんは語ってくれた。実際、来ていたお客さんたちの中にはデザインが専門の人もいた。

ファブラボにおける“多様性”

 “ファブラボでは多様性から新しいものが生まれる”そうはじめに聞いたときの“多様性”のイメージは分野も年齢も今までモノ作りをして来なかった人たちも含めたさらに広い意味の”多様性“だった。しかし、ここでの”多様性“とは”モノ作りという共通点でつながる範囲内“での”多様性“である。こう言葉で言ってしまうとそれは「期待よりも”多様でなかった“」と聞こえてしまうかもしれない。しかし、私は相部さんの言葉や楽しそうに話すお客さんたちの話や様子からファブラボはこの形がいいのではないかと感じた。マスターやお客さんによって特色を持つファブラボ。それらの”多様な”ファブラボがファブラボのネットワークで出会い、新しいことに挑戦して行く。それは決して急速に進むものではないが、いつかそのネットワークの中で新しい“イノベーション”が起きるかもしれない。私はそう感じた。
 そこでもう1つ疑問を持つ。訪問前に想像していた“多様性”というのは本当にいいことなのだろうか。そして、新しいイノベーションを生み出す条件とはどのようなものだろうか。それは一言で言えるものではないと思う。きっと目的や状況によって変わってくる。しかし、なんとなく“多様だからいい”というわけでもないことを忘れてはならない。“多様な”分野の学生が集まっているこのリーディングプログラムを履修しているからこそ、その点に注意して行きたいと思った。
 今回の訪問はファブラボの現状や雰囲気を知る上でも、自分の今後についても考えられるいい機会だった。
 訪問を受け入れてくださった相部さんとお客さんの方々、企画に誘ってくれ、一緒に活動した4人といろいろとアドバイスをしてくださった先生方、スタッフの方々、皆さんに感謝を申し上げたい。

多様な人々が集まればイノベーションが生まれる?2
~丹羽佑介の場合~

事実、ファブラボは人々の生活を変えている

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 事前調査の中でファブラボのホームページを参照すると、『「作る人」と「使う人」の分断の解消を目指す』とある。確かに作る人と使う人が一致すれば、ファブラボで作られるものは使う人にとって本当に使いやすいものになり、イノベーティブなものが生まれそうであるということは予想できる。海外に目を向けるとライフラインですら不安定な発展途上地域にもファブラボが設置されており、そのような場所にあるファブラボで作られるものは彼らの衣食住に強く結びついている。例えばインドの人口200人程度の村に設置されたファブラボでは自転車を改良した発電機が作られたことがある。
このような「作る人」と「使う人」が一致した結果作られた制作物は、彼らの生活を大きく変える可能性があるという点で非常にイノベーティブである。文献調査で用いた5冊の書籍でもファブラボはそのようなことを提供する場所になるという肯定的な立場で書かれていた。つまり、これまでは「作る人」になりえなかった多様な人々が集まってモノづくりをすることでイノベーションを起こすということが述べられていた。このような発想は超域イノベーション博士課程プログラムのコンセプトと非常に近いものがあるのではないかと感じ、ファブラボを訪問することでイノベーティブな現場を目にできることを期待していた。

現場を見てみると…

 実際に訪問すると、施設内に入り切らないほどたくさんの人がファブラボに集まっていた。そして互いに意見を交換しながら作品を制作しており、とても活気があると感じた。その様子は期待していたファブラボ像と同様、学生のような若い方からベテランの方がひとつの空間で協力しながらモノづくりに励んでいた。しかし詳しく観察してみると、そこに集まっている方々はモノづくりにもともと興味を抱いている方やモノづくりを仕事にしているような方がほとんどであった。つまりモノづくりに関する知識やスキルを既に持っている方々が集まりモノづくりを行なっていた。そのことは『作る人=使う人』が完全に成り立っている現場を見ることができると思っていた自分にとって、物足りなさを感じさせるものであった。
 しかし、ファブラボ筑波の代表者の話を聞くとそのような多様性は必ずしも求めておらず、イノベーティブなモノを無理やり作る必要は無いと考えているようであった。ファブラボ筑波の代表者もそこに集まる方々も互いに話し合いながらモノづくりをする際に、楽しむことに重点を置いており、実際に彼らは活き活きとモノづくりに取り組んでいた。そのように楽しみながらモノをつくる姿は非常に好感が持てるものであった。

では、自分たちはどうするべき?

 一方、私達が所属している超域イノベーション博士課程プログラムでは様々な専門分野をもった学生がそれぞれの境域を超えてイノベーティブなものを創造していくことが求められている。この多様性は今回訪問した筑波のファブラボに集まる人のそれとは異なるものである。しかし今回の訪問で発見できたように多くの人が協力して一つのモノを作り上げていく様子は、今後履修生が協力して何かを作り上げていく上で参考にすべきであると思う。特にその過程で多くの人が協力しながら活き活きと一つのことに注力する姿勢は、私達が大切にすべきことの一つであると思う。

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