Texted by 大阪大学大学院基礎工学研究科(超域2015年度生) 勝本 啓資

 今回私が執筆させて頂くのは、2015年3月30日(月)・31日(火)に開かれた、超域イノベーション博士課程プログラムのオリエンテーション合宿と、4月1日(水)に挙行された履修宣誓式についてです。
 本プログラムでは、履修生は各研究科での授業とは別に超域履修生向けに開講されている授業の履修もします。また、1年目の夏季休暇を利用した語学研修、(プレ)インターンシップ等の海外研修もあります。このように超域プログラムでは学生に様々な経験ができる機会がありますが、それには前々からの準備と心構えを今一度確認しておかなければいけません。その心構えの確認と、これから5年間付き合う同志、教職員、先輩との交流を目的としてオリエンテーション合宿が、そして我々の節目の式典として履修宣誓式が行われたと感じています。
 本レポートではオリエンテーション合宿と履修宣誓式での内容を紹介し、そこから私が感じたことを報告したいと思います。

オリエンテーション合宿

 まず、履修宣誓式に先立って開催されたオリエンテーション合宿について記します。合宿では概要の説明のほか、先輩方からの海外研修報告やマナー講習など、さまざまなプログラムが行われましたが、ここでは、私にとって特に印象深かった、フューチャーリーダーズ・フォーラムとワークショップについて紹介します。

「超域生の将来に期待するリーダー像とは?」〜第7回フューチャーリーダーズ・フォーラム〜
 文部科学大臣補佐官の鈴木寛氏を招いてご講演をして頂きました。その時、印象深かったのは“リーダーはどれだけ板挟まれるか”という言葉でした。ある物事を進める際、ジレンマやコンフリクトが発生すれば、それが難問となって人々に立ちはだかり脅威となります。その難問に立ち向かうタフさ、解を一般普遍解として求めるのではなく、一般性をある程度落としながらも難問に対する解決策をひねり出す、つまり寛解導入していくことの大切さについて話して頂きました。
 私は物理学、とりわけ理論物理学を専攻しているので、ついつい一般普遍解を求めてしまいがちです。しかし、これはすこし危険なところがあって、より一般的な解を求めるのは良いことなのですが、現実の事例に対してすぐに一般解が求まるとは思えませんし、時間がかかりすぎてしまって、問題への対処が後手に回ってしまいます。実は、なにも初めから一般解を求める必要はなく、それよりも、寛解導入することが必要である、ということを鈴木さんの話から感じました。当然と思われる方もいるかもしれませんが、自分が専門にしてきた分野の思考法や姿勢のために、他人にとって当たり前であると見なされていることが、見えなくなってしまう、つまり盲点(スコトーマ)が生まれてしまうのはよくあることだと思います。
 鈴木氏の話される実体験は、気持ちがこもっており一つ一つの言葉に重みがあるのに、それをあえて感じさせないところから氏の謙虚さが伺えました。これも鈴木氏の魅力の一つなのだろうと感じられ、質疑応答では質問が尽きずもっと話を聞きたがった学生が後を絶ちませんでした。

オリエンテーション

ワークショップ 〜コミュニケーション能力の真の意味〜
 夕食後はファシリテーターに蓮行先生(コミュニケーションデザインセンター特任講師)を迎えた、演劇を応用した履修生企画ワークショップがありました。まず、集団として円滑にコミュニケーションが取れるようなゲームを用いてアイスブレイクを行いました。そして、あるテーマについての主張の強弱毎にチームに分かれてディスカッションをし、最後にはそのチームで話し合われたことを代表者が全員の前でプレゼンテーションをするというものでした。これはディベートのようなもので、自分自身が思うこととは関係なく、何か与えられた立場の意見を代弁し、正当化していく、というものです。これはただの人と意見をやり取りするゲームではありません。一見、コミュニケーション能力を向上させることがこのゲームの主旨であるかのように伺えます。確かにそれは大切なのですが、コミュニケーションとはあくまでも手段です。もっとも重大なのは、その内容と同時に、他人とコミュニケーションをとったことによる効果です。それこそが人と話す、人の意見を聞く、他人に理解してもらうために自分自身を何とか表現しようと努力することの大切さなのだと強く感じました。このゲームの目的は、自分の意見や価値観はひとまず置いておいて、特定の人物になりきることで、「こんな意見を持つ立場の人間はこういう論理で、こんな発言、主張をするのだろう」と推測し、感覚的にも体験するとこだと思いました。これによって自身を相対化でき、自らをメタ認知することが出来ます。
5オリエンテーション-001  私は学部生のときに中高の理科の教員免許を取得しましたが、シャイな中高生やあるいは他人の気持ちを推し量るのが不得意な人間に効果のある、演劇を応用した、このワークショップのようなゲームについて教えてくれる授業はありませんでした。演劇、つまり自分とは異なる人物を演じることによって、他人の気持ち、理屈を代弁し、自分自身をメタ認知することが出来る、これはとても重要なことだと思います。何か決定を下す時に、リーダーあるいはエリートほど少数派の意見の人々の気持ちに寄り添えなければなりません。つまりメタ認知が出来る人間でなければならないでしょう。もしそうでなければ、集団をまとめ大きな決定をすることは許されないからです。

履修宣誓式~私たちの第一歩~

 合宿の翌日、4月1日(水)には履修宣誓式が開催されました。当日は生憎の雨でしたが、大阪大学理事・副学長であり、プログラム責任者である東島先生から履修許可証を受け取り、2015年度生の履修生代表である国際公共政策研究科猪口絢子さんから宣誓の言葉を読み上げられました。先生方の激励の言葉をうけ、式は恙なく閉式し、最後に写真を撮って終了しました。この日、我々は名刺を渡されました。そこには、所属する研究科、名前が書かれており、そして『大阪大学 超域イノベーション博士課程履修生』と記されていました。「立場が人をつくる」と言いますが、この時に私は超域生である自覚がはっきりと生まれました。

履修宣誓式

 この3日間は我々超域生1年生である、2015年度生にとって初めての超域生としての活動でした。痛感したことは、それは我々がかなりの期待を寄せられており、そのために多くの時間や資金、そして教職員や外部の方々が協力して下さっているということです。  そこにはもちろん履修する人間としての責任もついてきますが、この3日間に教員やその他の方から、この“責任”という言葉は一度も聞こえてきませんでした。それはのびのびと大学院生として自分の研究に励むと同時に、超域生として様々な経験、難問に立ち向かっていってほしいというメッセージであり、それに応えるためには、我々が自己管理し自らの教養と良識をもって行動していかなければならないのだと実感させられました。古代ギリシア、「Eureka!」と叫んだというアルキメデスのように、自分なりの気づき、発見、成果を示せるように励まねば、と気持ちが引き締まりました。超域生であり、また研究者の卵として研鑽を積んでいくことで、このプログラムで得た経験、活動が一人でも多くの方の役に立つことが出来きるよう精進して参りたいと思います。
 長々と書いてしまいましたがこの辺りで4期生初の投稿を締めさせていただきます。