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Texted by: 大阪大学大学院 生命科学研究科 若林 正浩(超域 2014年度生)

 2016年1月、超域アクティビティ・プラスの枠組みを使い、「創造性を育む短歌ワークショップ『歌会』」が開催されました。これは超域プログラム3期生(2014年度生)である若林正浩さん(生命機能研究科)による発信で、松行先生(全学共通教育推進機構)とともに企画されたイベントです。二夜にわたって行われた歌会は、超域内外から多数の参加者を得て、非常ににぎわいのあるものとなりました。今回の記事では、主催者である若林さんから歌会開催の意図やねらいについてご執筆いただくとともに、参加者の方々からのご感想も紹介します。

■企画の動機

 まず、2つほど簡単な質問をしてみたい。

①最後に美術館や劇場を訪れたのはいつですか?
②最後に絵を描いたり、楽器を演奏したりしたのはいつですか?

 多くの人々にとって、芸術とは遠いものではないだろうか。幼い頃は画用紙に絵を描いたり、鍵盤ハーモニカで友人と合奏したりと芸術が日常であった。年を経るごとに、多くの人は芸術から離れてゆく。芸術は、確かに余剰である。日常とは関わりのないことであろう。だからこそ、余剰は豊かさである。日常に関係がないからこその非日常を、日常に組み込んで欲しい。
 私はかねてから超域イノベーション博士課程プログラムに、芸術関係のコースワークを付加するべきだと考えていた。大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムは、領域を超えることでイノベーションを生み出すことを目標に、専門分野にとらわれない博士人材を育成しようと努めている。そのためには、文理融合というありきたりな考えにとらわれるのではなく、より一歩先を進んだ、文理芸の融合が必要だと感じる。また、現状の大阪大学のコースワークにおいては、論理的な考え方が求められるプログラムが多く、感性的な要素を含むプログラムは殆ど存在しない。文学部の一部の専修や旧コミュニケーションデザインセンターのコースワーク(コミュニケーションデザインセンターは2016年6月をもって閉鎖となり、現在は受講することができない)の中に、芸術作品の鑑賞、分析を目的としたプログラムは存在するものの、芸術作品を製作し自らを表現するプログラムとなるとさらに限られたものとなってくる。自己表現は教育のみならず人生においても大きな意義のあることであるにもかかわらず、一般的な大学においてその力を醸成するプログラムが殆ど開講されていない。このような現状を省みて、私は本ワークショップの企画を思い立った。

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 さて、芸術製作に関わるワークショップの企画をするにあたって、問題は対象を何とするかである。芸術と一括りに言っても、美術、音楽、文学、彫刻、演劇等挙げればきりが無い。芸術に普段触れたことの無い方に触れて欲しいという思いがあることから、初めての方でも作品の製作が可能なものを対象としたい。また、数時間という限られた時間で完結させなければならないし、事前準備等で参加者の方に大きな負担をかけることも好ましくない。こういった背景から、短歌が最適ではないかと考えた。短歌は、31文字からなる日本の伝統的な短詩形式であり、我々が日常用いている言葉を用いて創作可能である。また、31文字という制約があるので、完成形の型がはじめから与えられている。メモ帳とペン、もしくは携帯電話のメモ機能さえあれば誰でもいつでも創作可能で、本ワークショップ終了後も興味のある方は準備なしに継続することができる。一方で、助詞一つ違えば作品全体の印象がガラリと変わることがあることからも、芸術表現としての奥深さも味わうことができる。短歌は、間口は広いが、無限の奥深さを有しており、本ワークショップにとって理想的な対象であると考えた。

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