授業名: 理系の言葉を「教える/理解する」〜微小量の魅力〜Ⅰ
担当教員: 土岐 博 (産学連携本部)
              兼松 泰男 (産学連携本部)
              下田 正 (理学研究科)

Reported BY: 国際公共政策研究科  永野 満大

Commented BY:工学研究科  井上 裕毅
                       人間科学研究科  王 露園
                       生命機能研究科  生川 佳奈

  超域プログラムでは、学生の専門に縛られないユニークな授業が多く提供されている。今期一期生に向けて開講された「理系の言葉を『教える/理解する』−微少量の魅力−」では、微分や積分などの微少量を扱う概念の理解を通じて、理系学問における考え方を学び、理系と文系の壁の本質に迫ることを目指した。
  今回は、この授業を受講した井上くん、王さん、生川さんにインタビューを行い、授業の感想を聞いた。

Q:今回の「理系の言葉」、どういうところが面白かったですか?

■生川:
  私は先生の授業の進め方がとても好きでした。先生は授業の最初に、その日の目標をちゃんと示してくれるんです。「今日は、『虚数』について理解しましょう」みたいに。だから、先生の話す内容がすんなりと頭に入ってきました。
■王:
  それに先生は、学生が「わからない」という反応をするととても喜ぶんです。普通の先生はむしろ嫌な顔をすると思うんですけど。本当に人に教えるのが好きなんだと感じました。

Q:王さんはいわゆる文系の学生ですけど、授業の内容は難しくなかったですか?

■王:
  実は私は、もともと大学で物理学を学ぼうと思っていたんです。だから、高校生のときにみっちり物理学の勉強をしました。物理学オリンピックに出場したこともあります。まぁ結局は大学では報道論を専攻することになったんですけど。だから授業の内容は、正直簡単でした。(笑)
■井上:
  僕は受講生からの、特に物理学になじみのない学生からの質問がとても面白かったです。先生が波についての説明をしているときに、ある学生が「なぜ波は伝わっていくの?」と質問してきたんです。とてもシンプルな質問でした。でも説明してみようとすると、どう説明していいかわからない。数式の上では理解できているんですけど。自分にはない視点がとても新鮮でした。

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Q:この授業のテーマに「教える/理解する」があったと思いますが、それについてはできていたと思いますか?

■王:
  先生がなにも言っていないのに、授業のときは数学が得意な人と苦手な人が混ざるように座ってるんです。それでだれかが困っていると、すかさず隣の人が助けてくれる。自然と、学生同士が教えあう環境が生まれていました。超域の学生って本当にいい人ばかりだなと思いました。
■生川:
  私は理系の学生なんですけど、正直言って物理学は得意じゃないんです。だから今回の授業では教えてもらう側でした。特にチャーリー(井上くんのニックネーム)には、毎回質問をしていました。質問することに抵抗はなかったですね。超域の学生はそれぞれ専門分野が違います。これって、各学生が自分の強みを持っているということです。だから、今回私は教えてもらう立場だけど、次の機会にはだれかに教えてあげることができる。そういう「貸し借り」みたいなものを、みんなが感じているんだと思います。
■井上:
  僕は他の学生に教えることが多かったんですけど、その中で新しい発見がありました。まず誰かに数学を教えるには、相手がどこでつまずいているのかを理解する必要があるということです。その上で、どのように噛み砕いて説明すればいいのか考えるんです。これに気をつければ、ずっと伝わりやすい説明ができるようになりました。

Q:こところで井上くんと王さんは、それぞれカナダと中国で物理学を習ったんですよね。日本語で物理学を学ぶことに抵抗はありませんでしたか?

■井上:
  やっぱり数学の用語はまだ慣れないところがあります。例えば先生が口頭で「にじかんすう」とか「ふくそすう」って言ってもなかなかピンときません。漢字を見れば意味はすぐわかるんですけど。
■王:
  私は、数字は日本語で読むのに、「−」だけは「まいなす」と読むのにどうしても違和感がありました。中国語では短く「負」ですから。「−1」を「まいなすいち」って読むのって不思議な感じがします。
■生川:
  授業を通じて、国ごとの教育制度の違いに気づかされました。今回の授業は、日本の高校の教育内容を前提に設計されていたと思います。多くの日本人は、微分がなんなのかなんとなくわかっているはずです。でも超域生の中には、微分を全く習っていない人もいて、そういう人は最初のうちは本当に苦戦していました。
■井上:
  実は現在のカナダの教育制度では、大学で微積分を教えます。僕の世代までは高校で微積分を習っていたのですが。日本の数学の水準って、世界的に見たらとても高いと思います。国によって、数学教育の重要性に対する認識が違うのかもしれません。

Q:土岐先生についてはどんな印象を持っていますか?

■生川:
  本当にポジティブで、情熱にあふれた方ですよね。それに人材育成に対してもとても意欲的。
■王:
  私は先生の顔がタイプなんです。(笑)それに、話し方が学部時代の哲学の先生とそっくりなんです。哲学者と物理学者は似ているんでしょうか。
■井上:
  あと、先生の生き方がとてもかっこいいですよね。毎回授業後にコーヒーブレイクがあって、そこで先生とお話ししたんです。先生は、退官してからは、思う存分に研究ができて毎日が本当に楽しい、とおっしゃっていました。研究の感覚を取り戻すために、再度留学までしたそうです。自分のやりたいことができるのって、本当にうらやましいと思いました。

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Q:最後に、この授業で学んだことを、これからどう活かしていけると思いますか?

■生川:
  この授業は、世界を「微小量」という視点から理解する、という試みだったと思います。一見複雑な事象でも、微積分の概念を使えばとてもシンプルな関係として表現できる。私は、この物事を細かく分解して考えるという考え方は、もっと一般的に当てはまるものだと感じました。大きな問題に直面したときも、それを細分化して考えることで、解決の糸口が見つかることがある。これは超域の「問題解決技法」という授業でも学んだことです。
■井上:
  この授業を通じて、自分の強みを作ろうと思うようになりました。そして、それが他の人から必要とされたときに提供できるようになりたいです。まずは、自分の学問を突き詰めていこうと思います。
■王:
  私は久しぶりに数学を勉強したのですが、まだまだやれるなと自信を持つことができました。