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授業名:超域自主設計科目Ⅰ、Ⅱ-b
担当教員:黒崎健(工学研究科)
     西森年寿(人間科学研究科)
     山崎吾郎(未来戦略機構)
     大谷洋介(未来戦略機構)
Texted BY:工学研究科 2013年度生 樋口 舞衣
      工学研究科 2013年度生 岩浅 達哉

■自主設計科目とは何か?

 自主設計科目は、私たち超域履修生自身が、超域プログラムの新たな授業を企画立案するという授業である。この科目で授業を立案していくには、自分たちが学びたい内容は何かという視点に加えて、超域イノベーション博士課程プログラムの理念と現行のカリキュラム編成を理解した上で、現状では欠けている、あるいは十分でない内容は何かという視点も必要であった。また、企画立案して終わりではなく、企画立案した授業を実際に開講する機会が設けられているため、より実感を持って授業設計に取り組めるということが、この授業の魅力の一つである。

■実際の授業設計プロセス

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 本授業科目の進行のほとんどは履修生自身に任されており、どのようなプロセスで自分たちが企画する授業の内容を決めていくかも含めて、履修生が議論しながら詰めていった。まず、最初に各自が学びたいことを挙げていった。すると、プログラミング講座や社会人マナー講座、英会話などさまざまアイデアが出てきた。どれも興味深く受講してみたいというものばかりであった。しかし、議論を重ねていくうちに、何を学ぶべきか、つまり今あるカリキュラムに不足していることは何かという視点が、私たちには欠けていることに気付いた。
 そこで、超域イノベーション博士課程プログラムが掲げる「超えるべき『8つの境域』と、超えていくための『8つのアクション』」(※下図)の中で、現行のカリキュラムでは十分でない項目はどれかという議論を行った。その結果、『独善的エリート主義を超える』という項目に着目することになった。なぜなら『独善的エリート主義を超える』というテーマを真っ向から取り扱った授業は存在しないからである。つづいて、『独善的エリート主義を超える』という授業をデザインする上で、エリートとはどうあるべきかという話になった。エリートは社会や所属する集団、生活環境によって変化し、エリートにも様々な姿のエリートがあるべきである。しかし、現在、多くの人が描くエリート像は似通っており、エリートと言えば「グローバルに世界で活躍ができ、仕事がバリバリできる社会人」などといったイメージを答える人が多いだろう。このような画一的なエリートを多くの人が目指すという状態は、価値観や考え方が画一的になり、他人の立場や利害を考えず、自分たちだけが正しいと考えひとりよがりな『独善的エリート』に生み出すことにつながる。『独善的エリート主義を超える』ためには、まず世間一般が求める世俗的なエリート像だけをそのまま鵜呑みにするのではなく、改めて自分自身を見つめ直し、自らのエリート像を描き直し、そして多様な価値観を認める必要があると考えた。

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■設計した授業のコンセプト

 そこで私たちのチームが考えたのが、世俗から一定の距離がある『禅』を軸とした授業である。まず、自分自身を改めて見つめ直すには、世間一般の視点ではなく、世間から一定の距離を置いている人の話を聞いたり、その人の行っていることを追体験したりしながら、新しい視点を得る必要があるのではないかと考えた。世間から一定の距離を置いている方の例として僧侶というアイデアが出てきた。仏教について調べると、重要な概念の一つに「中道」という考え方があることが分かってきた。これは、極端な事柄や概念に偏向しない修行の在り方を規定する考え方であり、『独善的エリート主義を超える』というテーマにも合致した考え方である。そこで私たちは仏教の修行の一つである禅によって自分自身を見つめ直し、自分自身の価値観・世界観を獲得することを学習目標とした。また、外部からの要請で作り上げられたエリート像ではなく、自らの世界観に基づいたエリート像を描けるのではないかと考えた。同時に、自分とは異なる世界観の一つである仏教や禅の世界観を知ることも目標とした。

■本授業で得たこと

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 本授業を受講して、現状のカリキュラムの中で足りない所を探す過程においては、超域のカリキュラムや授業がどのような狙いで組まれているのかなどを俯瞰して考えることができた。この視点によって今まで受講した授業および現在受講している授業について一段階高い視座から考え直すことができ、超域のカリキュラム自体に対する印象が今までと少し変わった。また、このようなメタ視点の獲得を狙う授業は他にも多数あるが、本授業は実際に授業を設計するという実体験に基づいて俯瞰力を向上することができ、他の授業よりもその効果も高かったと思う。今後、この授業で培ったメタ的な考え方を生かして、超域の授業だけでなく、プロジェクトや研究においても、意識的に全体像を捉えながら進めていきたい。

>> Report.2 実際に設計した授業についてはこちら

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