授業名:経済学的思考法
担当教員:大竹 文雄 (社会経済研究所)

TEXT BY: 工学研究科 高田 一輝

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

  さてさてこの度、超域の目玉授業の一つである「経済学的思考法」についての記事を書くようご指名賜りました、工学研究科の高田です。
  この授業は、私が超域に入る前から「超域入ったらテレビ番組作るらしいよ!」という前情報でその存在を認知していた程度には典型的な「超域」の授業でして、「そんな授業のレポート、私のように代表性に欠ける者に書ける物か」などと思ったりもするのですが、僭越ながら筆を執らせていただきたいと思います。肩肘張らずにゆるゆると授業を振り返ってみましょう。


■授業前:

  前述のとおり、経済学を扱うテレビ番組を作る授業だ、ということは分かっておりましたので、あらかじめ指定された経済学の本(などと書いていますが大半は漫画です。なかんずく『この世で一番おもしろいミクロ経済学』はお勧めですので、ぜひご一読ください)を実験の合間に読み、理解しづらかった経済学用語は「授業で先生に是非質問しよう」などと考えながら、初授業の日を迎えました。

■初授業:

  先生曰く、「皆さんには、経済学を扱うテレビ番組を作ってもらいます」。何か座学があるのかと思いきや、遽(あわただ)しくグループ分けが行われ、「じゃあ、どんなテーマで番組を作りたいか、グループで決めてください」との仰せが下りました。我々の中に経済の専門家などいませんでしたから、そりゃもう会議は踊ります。自分の専門と経済をなんとか結び付けようとする学生自分の興味と番組の趣旨の狭間で葛藤する学生そもそも番組の趣旨ってなんだろうといぶかりだす学生(これが私です。懐疑が踊っていますね)。私はグループでの討議が超域の醍醐味だと思っているのですが、このグループ討議は特に、「専門家たちが専門外の議題について議論したらどうなるか」という第一の遭遇事例として印象に残っています。ここで、「専門家」というのは(些か以上に尚早ではありますが)各超域生、「専門外の議題」とは経済学を指します。
  これまでのグループ活動では、メンバーの中に一人は活動課題に造詣が深い学生が混じっていたものなのですが、今回は違いました。この類の討議では、各々が各々の専門や関心事を無理に引っ張り出そうとしてくるきらいがあり、それゆえに議論が紛糾するものだと学ばせていただきました。この「ダンスパーティー」を経て、まずは素直に経済学を勉強し、面白い番組を作ることに専念しようという気にさせられました。なんでも意見を言えばいいってもんでもないのですね。

IMG_1837

  そんなこんなで自分の興味ある経済学というよりは、「どんなテーマだったら面白いかなあ」などと考える日々が始まります(翌週までにテーマを決めないといけなかったので)。そんな折、ちょうど私が「環境経済学」という分野を勉強していると、「富士山世界遺産登録」のニュースが舞い込んできました。「”遺産”に登録された富士山の環境の”価値”を経済学的に決める……これは面白いぞ!」と深夜の研究室で直感した私は、富士山をテーマにして環境経済学を取り扱う番組にすればいいのではないか、とメールを通してグループの皆や先生に提案してみました。返信のメールもまずまずの反応だったので、私はすっかり欣喜雀躍(きんきじゃくやく)し、何もかもうまく行きそうな予感がしていたのです。

  などと書くと、この先の展開は予想を立てられてしまうかもしれませんが、おそらく皆さんがご想像されている通りでございます。次の授業で「共有地の悲劇が!」「トラベルコスト法が!」など熱弁を振るうも、突っ込んで質問されると自分が実はそれらの概念をよく理解していなかったことを思い知らされ、しかもこのテーマだけでは番組が持たないということにも気づかされました。この後の授業でもこんな感じの連続です。
  わかったつもりの話でも、噛み砕いて説明しようとすると分からなくなる。どのくらい話を詰め込むと番組として成立するかの感覚が全然わかない。テレビ番組ってどう編成したら興味を持たせ続けられるんだろう。映像を効果的に活用する方法とは。作業が進めば進むほど、疑問と懊悩(おうのう)、そして興味は止めどなく湧いて出てきました。

1935 のコピー

  そんなふうに紆余曲折にまみれた番組作成で、最後の授業で発表した「成果物」は完全とは言い難かったのですが(のちに番組制作のプロの方に辛口コメントをいただきました)、制作の過程ではほかの超域生の議論の進め方にどんな癖があるかとか、得意な作業は何かとかが自然と見えてきて、大いに勉強になりました(もっともこれは私の勝手な価値観に基づく「独学」ですが)。

  ……とまあ、こんな好き勝手に書いてしまって、「シラバス」で先生が求められている「この授業で身に着けてほしい能力」と齟齬(そご)を来していたらどうしようかと戦々兢々しているわけですが、あくまでも今、この青二才が振り返ってみるとこんな印象が強い授業でした、ということでどうかひとつ、ご諒恕(りゅうじょ)賜りたいものです。それでは今回はこれにて、擱筆(かくひつ)いたします。

IMG_1834