インタビュアー:12年度生 佐藤 紗良
(取材日2013年10月)
佐藤
「今回のチョウイキジンは12年度生の国際公共政策研究科・佐々木 周作君と人間科学研究科・瀧本 裕美子さんによる文系同士の対談でお送りします。
『超域での過去と未来』と題して、超域に関する内容の濃い話をしてもらいました!」

【今までの超域】

佐藤
「超域ってやっぱりどういうことやってるのか分からないって意見が多いよね。あと超域に入ってどう変わったか、とか。だから今回は入る前と入った後、それから今後についてそれぞれ聞いていきたいと思います。 まず、入る前は超域のことをどう考えていた?」
佐々木
「僕は社会人から戻ってきたこともあって、大学院に5年間在籍できるだけで十分有難かったんだよね。表向きにどれだけ華やかなことを謳っていても、それが実現されるかは別で相当な苦労があるはずだから、自分としてはその根底の部分が守られてるだけで十分だと思ってた。だから、正直、期待値はそんなに高くなかったと思う。」
瀧本
「私は期待もモチベーションも高かったかな。学部時代に取り組んでいた日蘭学生会議の経験を活かしたいと思っていたので、超域で次のステップが踏めるんじゃないかなと。」
 
佐々木
「その気持ちも分かる。あと超域の募集要項に、これからの世の中で必要となることが明確に表現されていたのには魅力を感じたね。社会人経験やボランティアを通して、周りの人たちと共に気付き始めていた社会の新しい課題を、大学の中にいる人も同じように認識してるんだなあと思った。」
瀧本
「それは思った!あと院生の間に長期プロジェクトができるっていうのは魅力的だと思ったかな。社会課題に対する授業や文理融合の授業もポイントではあったけど、そういう授業は元々阪大の中でよく行われてたし。」
佐藤
「阪大には既に『CSCD*1』とか『大学院等高度副プログラム*2』とかがあって、文理融合とかには積極的に取り組んできたもんね。」
佐々木
「確かに。僕は学部時代は別の大学だったんだけど、阪大に来た時、色んな研究科同士で領域横断が進んでいるというのは感じた。
良いことだよね。」
佐藤
「じゃあ現在の超域の感触は?」
佐々木
「普段の授業も面白いけど、課外活動から学べることが多いかな。
今年は、超域で知り合えた人たちの力を借りながら、自主活動を幾つかやることができたし、そこでまたネットワークを広げられたのが良かった。」
佐藤
思修館*3との取り組みと、神山だね。今年の夏はUNICEFへインターンにも行ってたし、よくやりくりしてるなって思った。」
瀧本
「最近は座学ばかりだったから、『ソーシャルイシュー解決授業*4』で久々に超域らしさを感じた!やっぱりこの半年間は修論に意識がいってたから特にね・・・それに超域の中でも専門の大切さを感じるようになったし。」
佐藤
「『この問題は専門から見てどう?』って質問はよく出るし、たきちゃん(瀧本さん)なんかもよくそうやって聞かれてるよね。ところで2人の一番大きな壁は何だった?私としては今出てきた『専門から見て語る』っていうところなんだけど。」
瀧本
「私も専門自体。他の分野の人に対して、間違ったことを伝えたり誤解を生んでしまったらと思うと怖いよね。自分の個性が入った意見はできるけど専門をどう入れられるか常に自問自答・・・議論に貢献できる、プロになることができる領域って何だろう。今は『直感』しかない(笑)」
佐藤
「直感力があるだけでもすごいと思うけど(笑)」
佐々木
「そうだね。僕の壁は、自分の思考の『癖』みたいなものかな。これまでは自分が既に体験したことのある正攻法に落とし込んで、できる範囲で課題をこなしてしまうことが多かった気がする。」
佐藤
「石橋を叩いて渡ってたのね」
佐々木
「うん。でも、大きく伸びるためには慣れないことにこそ積極的に飛び込んでいく必要があるんだよね。」
瀧本
「石橋を叩きすぎて割るくらいにならなきゃいけないってことか!(笑)」
佐々木
「そうそう。その意味でも『海外プレ・インターンシップ*5』でM1の段階から海外の専門機関や企業を訪問させてもらえたことは良かった。海外で大きく背伸びして自分の価値をアピールする、っていう体験は初めてだったし。海外の専門家に『日本の状況はね…』と話す場面も多かった。今思い返すと、あまり正しいことを言えてなかったんじゃないかって恥ずかしくもなるけど、背伸びした経験から成長できた部分は大きい。」
瀧本
「海外に行くとよく感じるね。『あなたは誰であなたが考えていることは何?』って聞かれたとき、自分がまだ到達していないレベルの話をしなきゃいけない立場に置かれる。でもそれによって自分の立ち位置を考え直すことができるんだよね。」
佐々木
「半年後くらいに、分かった風な口をきいてたなあと気がついて、ちょっと恥ずかしくもなるんだけどね(笑)。」

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佐藤
「超域に関わっている人って私たちに見えるところでも見えないところでも本当に沢山いると思うけど、その中で『あなたに会えて良かった』っていう人はいる?」
瀧本
敦賀先生プレ・インターンシップのときにお世話になった先生です。」
佐藤
「この3人と敦賀先生で一緒にヨーロッパに行ったんだよね。だから何が言いたいのか大体分かる(笑)」
瀧本
「そうだよね(笑)。2人も感じたと思うけど敦賀先生の厳しさがよかった。プレ・インターンシップの準備が十分にできていなかった、考えが甘かったってことを、『本来はこうしていなければならなかった』って厳しく言ってくれた。口でうまくごまかせてしまう場面ってよくあるけど、先生の指摘はクリアで納得のいくものだったから、あのときは本当にマズイって感じた・・・いい意味で冷や汗をかかせてくれた先生です。」
佐藤
「私もあのときは自分に危機感を抱いたなあ・・・敦賀先生は実践で働いてきた人だから国際社会の厳しさと日本の学生の甘さを知ってるんだね。実践の価値観も持ち合わせているから客観的に私たちのことを見てくれるってことかな。」
瀧本
「そうそう、超域と専門の二つに取り組んでいたとしても下駄は履かせません、って感じ。」
佐々木
「超域プログラムの成果って、卒業してから何十年後とかに現れてくるものだと思うんだよね。でも日々プログラムで活動していると、リーダーに必要な素質を5年間で全て養わないといけないような感覚に陥ってしまう。敦賀先生は、5年間とか、プレ・インターンシップの2週間とか、実際の期間で達成すべき成果の水準を、現実感をもって示してくれる。」
佐藤
「楽しむところは楽しむけど、それとは別にきちんと能力を判断してくれるよね。では周作くんが会えて良かった人は?」
佐々木
「僕は平井先生。何か企画をやりたいって言った時に、学生の目線に降りてきて一緒に企んでくれるところ。神山の地域おこしの事例でも、大南さんというリーダーがそういう人だったよ。現場の声をもとに一緒に作戦を練ってある程度形にした後、行政や企業に繋いで規模を大きくしてた。こういう動き方をする人がいてくれることで、組織は面白くなるんじゃないかって実感したな。」
瀧本
「この前、平井先生のことを『一緒に悪巧みしてくれる人』って言ってたのが印象的で良かった。それって目線を柔軟に合わせてくれてるよね。」
佐々木
「色んなフィールドを行き来してくれる先生って、意外と少ないと思う。学生と教員間のパイプというか・・・必要な人に繋いでくれたり、アイディアを上手く上にあげてくれたり。」
瀧本
「超域に20代から60代までの各年代が揃ってるのはいいことだって改めて感じたなあ。階層の中でそれぞれが動くと上手に機能するんじゃない?」
佐々木
「うん、やっぱりそういうアグレッシヴな動き方をするのが平井先生の年代だけだと不十分な気がする。学生も自分たちの周辺で同じように動ければ超域ももっと面白くなるんじゃないかな。」
佐藤
「それぞれがうまくいくように動くってこれからの私たちの課題でもあるよね。」

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【これからの超域】

佐藤
「これからの課題が出て来たところで、話を未来形に変えましょう。将来って沢山選択肢があるよね。その中で今後も超域を続けたい理由って何?」
瀧本
「自分の研究と社会的意義を自覚する自分の間にバランスを取ることが一つの理由かな。世の中から乖離してしまいがちな研究だし社会に役立つのに即効性はないし。でもみんなに会ったときに『人にインパクトや影響を与えられるのはいつ?社会に到達するのはいつ?』って改めて自分の研究を見つめ直せる。」
佐藤
「要するに、たきちゃんにとって超域は社会に目を向ける為の窓として機能しているんだね。」
瀧本
「もう一つは単純に日常化してしまったってことかな(笑)。精神的負荷に対してかなり強くなったと思う。これが私なんだ!って開き直れるようになった。」
佐々木
「僕はそこまで受け入れられてるか分からないけど(笑)。僕にとっての超域の位置づけは、気軽にアイディアを投げかけられるコミュニティだということ。自分でプロトタイプする時に、色んな研究科の人から意見を貰える空間が身近にあるのって面白いよね。あとこれからのことだけど、良い意味でプログラムに依存し過ぎないで、沢山ある選択肢中から、こういう目的があって超域に所属してるんだっていう感覚はいつも持っておきたいなと思ってる。」
瀧本
「その考え方いい!常に『何が正しいのか』を自分に問いかけて、判断することは大切だと思う。」
佐藤
「そういう視点を持てたのも超域にいたからかな?」
瀧本
「そう思う。アウトプットを出すのが多いのはいいことだよね。ダイレクトに外に発信したりもするし、いやでも自分の結果を意識せざるを得なくなるから。」
佐々木
「自分が書いてきたもの、レポートとかWeb記事とかを時系列で追うと、意外と自分の変遷が分かるよね。当時どんなことを考えていたか結構忘れてしまってるから、一気に見返す作業で気付けることは多い。」
佐藤
「自分のプロセスを辿り直すことによって、過去を振り返りつつ将来の展望がよりはっきり見えるってことだね。」
佐々木
「将来の展望で言ったら学外の人たちの中で揉まれたいっていうのがあるかな。色んな年代の人とプロジェクトをしたい。」
瀧本
「1つ1つの超域の課題を『大学院の5年間』っていう時間枠で考えると、研究するべきじゃないかって焦ったり、意味があるのかなって思ってしまうこともある。でも長い一生の中で今までやってなかったことをやってるんだ!って考えたら考え方も変わる気がする。」
佐藤
「さっきもそういう話が出て来たよね。長期スパンと短期スパンの使い分けが必要なのね。」
佐々木
「色んな考え方や生き方があるってことが大事だよね。選択肢の幅も大事。そういう中で超域を選択したんだっていう肝の据わった学生に入ってきてほしいな。」
佐藤
「超域の未来を担うこれからの学生。ポジティブに選択し続けられる人ってことかな。」
瀧本
「決断を大事にする人。自分が所属する機関に対して客観的な視点と疑問を持てる人。あと超域の全部を気に入らなくてもいい。むしろ超域でこれだけでもやりたい、ここだけでも期待している、って考えるのはいいことだと個人的には思う。」
佐藤
「沢山の選択肢の中から能動的に超域を選んでもらいたいということだね。超域に入ってからも選択の連続。今回はそれを振り返る良い機会になりました。2人ともありがとう。後期の授業レポートもそろそろあがってくる頃です。お楽しみに!」

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<注釈>
*1「CSCD」・・・コミュニケーションデザイン・センター。大学院生を主たる対象者とした共通教育を行い、デザイン力・国際性などを高める
*2「大学院等高度副プログラム」・・・大学院レベルの学生が複眼的視野を養えるような授業を展開する学際融合的教育プログラム
*3「思修館」・・・京都大学のリーディング大学院プログラム
*4「ソーシャルイシュー解決」実際の社会的課題を用いてグループで課題の発見や解決法の提示を行い、社会での意思決定を疑似体験する授業
*5「海外プレ・インターンシップ」・・・実際に海外に行き、自分のキャリアアップにつながる機関や人々を訪問する授業