インタビュアー:2016年度生 井奥 智大
2015年度生 猪口 絢子
写真撮影:特任助教 山村 麻予
インタビュイー:2015年度生 小林 勇輝

 大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム履修生に、学生視点からインタビューする超域人。Vol.26の今回は、人間科学研究科で認知心理学を研究する小林勇輝さん (超域2015年度生)にインタビューを行いました。
 常に周囲の空気を和らげてくれる小林さんは、お笑いを見るのが大好きで、インタビュー中も和やかな雰囲気をつくってくれました。そんな彼にも、自身の研究と超域の両立や、今後のキャリアに悩んだことがあるとか。超域を通じて悩み、成長し、自分なりの社会との関わり方を見つけようとしている小林さんに、話を聞きました。

取材日 2017年2月3日

■ 明るさの知覚:心理学からのアプローチ

インタビュアー猪口:つい最近修論を書き上げたばかりということで。お疲れさまでした!

インタビュイー小林:ちょうど3日前に修論の公聴会が終わったばかりで、やっと終わった~って感じです。まだやることはいろいろあるし、研究と超域のために割いている時間は多いままだけど。

猪口:研究はどんなことしてるの?

小林:「明るさの知覚」っていうのを専門にやってる。端的にいえば色の知覚なのね。なんで僕らが物体を白だとか黒だとか分かるのか・・・っていう。

猪口:え、なんだか頭に装置がたくさんついたヘッドギアをつけて実験するような研究のイメージがまず思い浮かんだんだけど、それって心理学の分野なの?

小林:うん、心理学と神経科学とかは基本的には似通った分野なのね。どっちの分野においても「人の頭(脳)、心がどう働いているか」を研究対象にしてる。でも違う点があって神経科学とかの分野は、いわゆる生理的指標っていわれるような、血流量とか、電気信号なんかを測定して、直接脳の活動を見ようとする。一方心理学は直接脳を見ることはしないんだけど、行動を見るんだよ。それでいろいろと実験をすることになるんだけど・・・。
例えば、「ネコ、サル、ゾウ・・・、イヌ」とか順番に動物の名前20個ぐらい言われて、今聞いた動物の名前を言ってくださいって言われると、最初の2つ3つと最後の2つ3つを覚えていることが多い。ばーって物事を並べられると、人って最初と最後だけ覚えている傾向があるのね。これは、記憶には短期記憶と長期記憶があるからだ、と心理学では言われたりする。これって直接脳を見ているわけではないじゃん。こんな感じで、その人の行動を見ているわけよ。それを見た上で、人間はこうやって考えている、こういう記憶の機能があるんだってことを発見していく。つまり行動から、人間ってこういう風に考えている、っていうモデルを作るのが心理学のアプローチなの。

猪口:なるほど!私は心と頭を別々のものとしてとらえていたから、心理学と神経科学は全くの別物だと考えてしまっていたけど、本当は同じ人間の頭、心の動きをそれぞれ違う手法で調べているということなんだね。

小林:まあ僕の研究の場合は、例えばある状況で「このAとBで明るい色はどっちですか?」と実験参加者に聞くというような実験を行うと、「こういうときにAはBより明るく見えるんだ」ということがわかる。でも実際に物理的に測定すると、AとBの色は同じだったりするのね。これって目の錯覚が起きているからなの。それで、どういう条件で、どうやって目の錯覚が起きているのかを調べるのが僕のやっていることです。

猪口:そういえば、この前、小林君の実験に参加させてもらったとき、そういうのをやったなぁ。

小林:今までのは手法の話。本題の「明るさの知覚」っていうのが何かっていうと、白とか黒とかをどうやって知覚しているのかっていう話。重要なポイントは「明るさと色の恒常性」っていう現象。例えば今使っている机って白いじゃん。でもこの部屋の電気消しても白く見える。なんならさらに言えば夕焼けの赤い光が当たっても白く見える。僕らってこの机にどんな強さ、どんな色の光が当たっているかを頭のなかで計算していて、「あ、この机は今赤い光が当たっているから赤っぽいけど、実際には白い机なんだ」っていうことが分かるのね。
これってすごく不思議。だって机にどんな光が当たっているかなんて、直接は見えないじゃん?でも人間は目に入ってくる机の情報だけで、「本当は白いんだ」って知覚している。ずっと研究がされているんだけど、なんで人間にそんなことができるのか、よく分かんない。それを解き明かそうとしている。

猪口:写真に写ったドレスが青と黒に見えるか、白と金色に見えるかっていうのが、最近話題になったよね。それを思い出したよ。

小林:ああ、まさにそれ。あの写真だけでは、ドレスにどれだけ光が当たっているかがよくわからないから、色の見え方が定まらないんだよね。

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