インタビュアー:
工学研究科 12年度生 井上 裕毅、人間科学研究科 13年度生 篠塚 友香子
インタビュイー:
国際公共研究科 12年度生 橋本 奈保、薬学研究科 12年度生 下 剛典

  大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム履修生に、学生視点からプログラムについてインタビューする超域人。Vol. 14となる今回は、2012年度生の 橋本 奈保さん(国際公共政策研究科)と下 剛典さん(薬学研究科)に来年開始予定の長期インターンシップと修了後のキャリアパスについて話を聞きました。
  文系と理系、各々のインターンシップの捉え方、キャリアへのアプローチの仕方に焦点を当てた、今回の超域人。履修生がそれぞれ別の道を歩み始め、悩み多きドクター1年となりそうです。

取材日 2014年5月12日

 

■研究について■
インタビュアー:
2012年度生はこの4月から博士後期課程に進学しましたね。
環境が変わった部分もあると思うけれど、まずは二人の研究について教えて下さい。

 

橋本
私は修士のとき、東日本大震災後の東北三県における人口移動の要因分析をしていて、具体的には【人が出て行くコミュニティ】と【出て行かないコミュニティ】の、人の移動に影響する要因について数字を使って分析を進めていました。
根底にある問題意識は、自然災害や紛争が起こった時に、コミュニティが壊れないようにするためには、また、強いコミュニティを作るためには、どのようにすれば良いのか、ということ。特に後期課程では、国連や国際機関が介入して復興が行われている中で、その活動内容と効果を研究していくつもりです。

choikijin14_shimo-takenori_2404僕は学部・修士・博士と研究内容は一貫していて、遺伝子に直接作用する薬(核酸医薬)の開発を研究しているよ。(写真右:下くん)

これまでの薬は、基本的にタンパク質に作用するものが主だったけど、最近は遺伝子に直接作用する薬の開発が進められていて、そうするとこれまで治療が難しかった遺伝子による病気や難病を治せる可能性があるんだ。分野的には、生物と化学の融合研究になるけれど、その中でも僕は生物の基礎研究を担当しているよ。

 

■インターンシップについて■
インタビュアー:
来年の長期インターンシップ*1が迫ってきていますね。インターン先の目処は立った?

*1:履修生は3年次に2ヶ月以上1年未満の長期インターンシップが予定されている。博士課程修了後のキャリアパスに向けて1年次から3年次のコースワークで培った知識とスキルを具体的な実践の場で展開し、「社会の多様な方面で広く活躍できる次代の博士人材」としての能力を実証することを目指します。

橋本

私は今、国連人道問題調整事務所(United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs, OCHA)でchoikijin14_hashikoto_2372インターンシップさせてもらっています。
(写真横:橋本さん)

私の分野はインターンシップの経験の積み重ねが重要で、来年は海外でのインターンシップを考えているため、その前に国内で経験を積んでおこうと思ってこの時期にインターンを始めました。
国際機関で働くには、そもそも何かしらの経験値が要求されるのですが、私の場合はボランティアの経験があるのみだったので、今しているインターンシップの経験を来年の長期インターンシップに繋げていきたいと考えています。
僕はインターンシップ先で行きたい方向が二つあって、一つは自分の研究を極めることができる最先端の場所と、もう一つは(創薬を産学連携でやっている)国際企業でのインターンシップで迷ってる。この国際企業の方は話が進んでいるんだけど、そこに就職するのであればそのインターンシップはメリットになるけれど、その経験が本当に将来自分の武器になるかは分からないな、と最近迷い始めてる。自分の研究と違う分野で活動を行っている企業でのインターンで得るものは多いだろうけど、6か月投資して何が得られるか…。理系はやっぱりピンポイントの研究になるので、インターンシップで自分の技術を活かせる場が少ないな…。
インタビュアー
文系と理系でインターンシップ先の候補の広がりに、違いがあるのかな?
橋本
なんだろう、文系と理系では求められることが違うと言うか、例えば、理系の下くんは専門知識が必要で(もちろん文系の私にも必要ではあるけれど)、尚且つインターンシップ先で経験を積んでなんぼ、という部分も大きいように感じるかな。その点、文系はインターンシップへの入口は広いのかもしれない。でも、普通のインターンシップじゃなくて、超域プログラムだからこそできるインターンシップとの違いをちゃんと考えないといけないよね。
そうなんだよね、社会問題の解決を視野に入れるのであれば、ただ専門を深めるだけでも駄目だし、専門以外の何か、たとえば広い視野を持つ能力も身につけないといけない。でもインターンシップがいざ近づいてくると、自分にとって専門を深めるのが必要なのか、視野を広げるのが必要なのか、迷いが生まれてきたんだよね。理系はやっぱり専門で勝てないと話にならないからね。
橋本
確かに、その辺のバランスが難しいよね。

 

■キャリアについて■
インタビュアー:博士課程を終えた後のキャリアパスについて教えて下さい。

 

橋本

私は国際機関や国際的なNGOで、IMG_2380 のコピー実際自分が研究したコミュニティの復興に関わったり、プログラムオフィサーとして働きたいと考えています。
(写真右:橋本さんの研究の様子)

例えばこの前、スイスでIOM(International Organization for Migration)を訪問したんだけど、そこにもリカバリーの部門*2があるので、そういう場所で働きたいです。他にもUNDP(United Nations Development Programme)にリコンストラクションのプロジェクト*2があったり、国際機関の中でもある程度方向が決まっているので、今はそのキャリアへどう繋げていくかを考えている段階です。
*2:自然災害や紛争の後の復興支援を行う部門とプロジェクト
インタビュアー
なるほど、橋本さんは既に行きたい機関や分野も決まっているんだね。下くんはどう?
僕は、入り口は製薬会社にしたいって考えているよ。ただ、最初の一歩をポスドクにするか製薬企業への就職にするかで迷っている。最終ゴールを研究職にするのもいいけれど、せっかく超域にいるので、視野を広く持って、国や大学、企業の連携に関わるような仕事もしたいって考えてる。
インタビュアー
下くんにとって、ポスドクになるメリットは何?

IMG_2409 のコピー国外の機関でポスドクになることを考えているので、まずは海外で活躍する足掛かりになるよね。(写真横:下くんの実験中の様子)

それに、理系はかなりピンポイントな研究をしているので、海外の研究施設に身を投じて技術を身につけるのも大切かなと。やっぱり、自分の研究を国際規模でやりたいというのがあるから。

 

■コラボレーション■
インタビュアー:
二人のキャリアパスとか聞いていると、何かしらコラボレーションできるんじゃないかという気がしているんだけど… 例えば、橋本さんのフィールドで、下くんが研究しているような薬を必要としている人もいるんじゃない?

 

うーん、どうだろう。僕の研究対象は難病で、かなり対象が絞られている。だから対象人数も少ないし…。
橋本
でも、例えば災害や紛争が起こったときの難民キャンプに目を向けてみると、一番弱い立場の人が難病や障害を持っている場合もあって、そこには全く技術が行き届いていないんだよね。最先端の研究が、そういう人たちにとって恩恵があるように活かされればと思います。開発側も、社会貢献事業としてでもいいので、一番弱い立場の人に行き届くように考えて欲しい。
インタビュアー
二人は、こういうコラボレーションが実現可能だと思う?
橋本
IMG_2366 のコピーコントリビュートの仕方って色々あって、資金や技術のコントリビュートだけではなく、知識のコントリビュートという点で実現可能性も考えられるんじゃないかな?ノウハウっていうか。
確かに、それは考えていくべきところだね。今、お互いの研究の共通点が分かってきたかも。どちらの研究もノンプロフィットなんだ。今日は自分の研究を話せてよかった。最初このインタビューの誘いが来た時は(橋本さんの研究との接点が無くて)話すことが無くてどうなるかと思ったけど、何か気づけた気がする。普段異分野の研究は聞かないから、こんなことできるのは超域しかないかもね。

12年度生は博士後期課程に入って将来の展望も決まりつつあり、各自が来年度に控えた長期インターンシップに向けて活動を始めているようです。 インターンと将来のキャリアについて頭を悩ませている履修生もいるかと思いますが、超域だからこそできる何か面白いことが生み出されることを期待したいです。