クロスバウンダリー・ワークショップ
「選択・洗濯を考えよう」

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Texted BY:工学研究科 岩浅 達哉
                    工学研究科 樋口 舞衣

■はじめに

  本企画は我々超域履修生と、花王株式会社(以下、花王)の社員・研究の方々と共に、多様な視点(生産者視点消費者視点研究者視点社会人視点学生視点)からのアプローチを考えることで、新しい価値観・考え方に触れ・新たな視点を備えることを目的とし、「花王×超域」のコラボレーション企画として開催しました。

  この企画では、

1:超域と花王、相互に刺激しあうことで何かを「超える」契機となることを期待し
  花王からは「社会・企業・ものづくりの多様な視点」、
  超域からは「学生・消費者の多様な視点」からのインプットを出し合う
2:花王エコラボミュージアム(以下、エコラボ)の見学からものづくりについて
  考察し、ものづくりにおける重要な段階であるコンセプト作りを体験して、
      学生と社員の共感・共鳴を図り、今後の花王と超域の関係構築へ繋げる


の2点を主軸とし、今年夏頃から超域12年度生の井上(企画責任者)、超域13年度生の岩浅、樋口(企画者)を中心として、花王の方々とワークショップの企画立案を行いました。

  上記の趣旨の元、平成25年11月25日(月)に超域生8名(12年度生:井上、冨田、生川、松村 13年度生:岩浅、金南、花井、樋口)が花王(株)和歌山研究所へ訪問し、若手研究者(入社4年以内)の方々とのワークショップの機会を得ました。
  このレポートでは、ワークショップを通して学んだこと・刺激を得たことを、その他参加者の感想も交えながら、企画者である岩浅・樋口が報告します。

■花王エコラボミュージアム(エコラボ)見学

  エコラボとは、環境に配慮したモノづくりを目指し、原材料選びからゴミに出すまでのサイクル全てをエコロジー視点で考え“いっしょにeco”に取り組む花王ならでは、の先端のエコ技術を体験できる「体感型エコミュージアム」です。今回はワークショップの事前学習も兼ね、エコラボの見学・体験の機会を頂きました。
  この見学を通して、花王の“いっしょにeco”というロゴ・メッセージに対する、私たちの視点・見方が変わりました。以前は「エコ活動しています」という「PRのため」のスローガンだと思っていましたが、この施設を見学してみると「花王の企業内・工場内でエコに取り組んでも限界があります。みなさんと一緒にエコすることが必要です。一緒にエコしましょう!!」という、エコにかける強い思いが見えるようになり、花王の一貫したエコ対策への姿勢が強く伝わってきました。

  また、エコを追求していたつもりなのに、それが逆に環境破壊につながっていたり途上国からの資源搾取になってしまうという話も伺いました。「何かを立てれば、その他の何かが立たなくなる。ある側面でのエコのために他の側面では環境破壊が起こる」、というのは非常に皮肉な話であり、今後ますます考えていなければならない重要な問題だと感じました。
  私たちはひとつの物事に対してどうしても視点が偏り、他の側面を見落としがちですが、何かアクションを起こすときにはあらゆる視点から物事を考察しなければならないのだと改めて痛感しました。

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■ワークショップ「選択・洗濯を考えよう」を通じて得たこと
〜コンセプト作りの面白さと、「ものづくり」企業ならでは、の実現力の強さ〜

  花王の研究開発の特徴は、「多分野の科学(サイエンス)と技術(テクノロジー)の融合を目指していること」、そして商品開発研究において「世界の消費者の生活とニーズを深く理解するための消費者研究をもとに、消費者が心地よく満足する商品に結実させるための商品設計や応用技術開発研究を進めていること」です。
  これは、一つの研究分野だけでなく、消費者研究や商品設計、応用技術研究を合わせてものづくりをしていく、まさに超域的な研究開発だと言えます。このワークショップで、超域生はそのような超域的で実践的な研究開発を体感し、花王の方々は超域生の様々な専門領域からの知見を体感することを中心として、ワークショップの設計を行いました。

  この趣旨のもと、本企画では将来(ライフプラン)を考える機会も兼ね備えることとし、「仕事や家族を含めた、私たちの未来像(ライフプラン)について深く考える中で、私たちのライフプランをターゲットにしたファブリックケアの商品コンセプトを考える」、という内容に決定しました。
  具体的には、私たちのライフプランから抽出した情報を元に課題を設定し、その時代に考えられるファブリックケアのコンセプトを解決策として考えます。その際、社会の持続性を目指す「エコ」とそもそも目指そうとしている「清潔」とは何かを考慮するし、グループごとにアイデアを出し合い発表する「ワールドカフェ形式」にて実施しました。

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  当日ワークショップが始まると、各グループ(超域2名、花王2名の4名×4グループ)のアイスブレイクから、超域生・花王の社員の方々の壁はいとも簡単に「超え」られ、それぞれの考えや視点を自由に発言できる関係がかなり早い段階で構築されました。また、ブレインストーミングからコンセプト作りの段階でも、各グループの特色が見事に発揮され、新しい視点・観点が多数出てきました。
  未来の「洗濯」がどんなものになるのか、数十年後が楽しみになるような面白く楽しさ溢れるアイデアが生み出され、ワールドカフェや最後のプレゼンテーションも、グループ関係なく刺激的な意見が交わされて大変な盛り上がりで終えました。

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  事前の企画ミーティングでは、花王の方々より「是非超域ならでは、の柔軟な発想を期待している」とコメントを頂いていましたが、花王の方とのワークショップから、我々超域生と花王の方々で柔軟な発想に大きな違いはないように感じました。
  この理由として、花王の社員の方が入社4年以内の若手研究者だったこと、また花王内での研修プログラムにて柔軟な発想を促進していることが挙げられます。
  また、花王の方々は「こんなものがほしい、あったらいい」というアイデアの発想に加えて、その要求を満たすためにどうすれば実現できるか、どのような方法・技術が必要かという「夢や理想を現実と結びつける力」があると感じました。チーム内でのディスカッションでは、創造的な理想やアイデアが飛び交っている中で、現実的な視点に立ち返って議論の軌道を修正してもらい、超域生が出した支離滅裂なアイデアを、実現可能なかたちに還元して提示してくれました。これは一度、製品開発を経験しなければ身につかない能力ではないかと強く実感しました。
  本企画に参加した超域生に、今回花王の方との共同を通して感じたことを聞いたところ、「超域生はなんでもかんでも積み込んで、一つの商品ですべてが解決できることを考えていたが、花王の方は一つの商品・製品ですべての要求が満たせるとは考えていなかった」という違いを実感していました。
  またワークショップの中で、海外で商品開発するときにに宗教はもちろん現地の人がどのようなことを考えて洗濯をしているかまで調査し、深く考えて商品開発しているというお話を伺い、時代背景・生活・考え方など、様々な要素を現地の方以上にその地域性を知る必要があることを知り、表面的なことやうわべだけでなく、深掘りすることの重要性に気づくことができました。

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■おわりに

  本企画を通して、今回創りだした「コンセプト」や「未来の商品」をさらにブラッシュアップし、どのような技術が必要か考え、技術開発し、商品に結びつけるような「製品開発」に携わる機会を、今後も是非作りたいと強く感じました。
  また、私たちは企画から当日のワークショップ運営までを担当しましたが、楽しく、学びながら遂行できたと思います。
  企画段階では、短い時間で最大の効果を生み出すためにはどのようなテーマ、形式のワークショップにすればよいかを企画者3人で話し合い準備を行いましたが、当日にワークショップがうまく機能するか・司会進行をうまくこなすことができるか等、とても不安でした。しかし、ワークショップ当日は各チームおもしろい議論を展開し、花王の方々の細やかな気遣いや他の超域生のサポートもあって、参加者全員が時間以内にまとめてプレゼンまで行うことが出来ました。司会進行やタイムキーパーをしながら自らもチームのディスカッションに参加するというのは正直大変でしたが、貴重な経験となり非常に勉強になりました。
  そして、普段は接点のない同年代の社会で活躍する研究者や、研究開発を先導する研究、ものづくりのスペシャリストの方々と交流することは、社会人のものの考え方・価値観を知り、今後の研究・人生設計を考える糧となりました。
  末筆となりましたが、今回のようなとても貴重な機会を下さった花王株式会社の花王株式会社の川野さんらをはじめ研究者の方々に心より感謝申し上げます。

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私たちレポート執筆者以外の参加者6名の「このワークショップを通じて学んだこと」をこちらにて紹介させて頂きます。