◆「お金はちょっと足りないくらいがいい」

橋本
北野さんご自身は学生の時はどのいう意識を持って勉強されていました?何か大きな転機があったりしたのでしょうか?
北野さん
特にないですね。そういう契機があるとドラマティックでいいんだろうけど(笑)。中学・高校のときは秋葉原少年でした。部品買ってきて、授業も聞かないで回路図書いて、また部品を買ってきてということを延々とやっていたんです。ラジオ工作から始まって、アンプやスピーカーなどのオーディオ関連、シンセサイザーも作った。そのうちにもうちょっとベーシックなことを勉強したいと思って、大学では物理か文化人類学を勉強しようと思っていました。
ウルフ
文化人類学と物理と、極端ですね(笑)
北野さん
どっちも面白そうでしょ?本当は一番行きたかったのはアメリカだったんです。プリンストン大学とかカルフォルニア工科大学とかに行きたかった。エッセイとか色々書いたけどレターがきて、「興味深いけど、学費が払えるのか?」って書いてありました(笑)。払えないですよね。スカラシップはないのかと聞いたら、外国人のUndergraduateにはないということだったので諦めました。
ウルフ
奨学金がないから行けなかった。もったいないですね。今の研究でも資金がないから研究を先に進められないということはないのでしょうか?
北野さん
当然ありますよね、それはどうやってファンドレイジングするかの話だよね。あるいは、お金がないなりに頭を使ってやるか。でもお金はありすぎるとだめで、お金はちょっと足りないぐらいがいいと思うんです、お金の使い方に頭を使うようになる。

◆サッカーを見ながらワクチンを接種するという
 プロジェクトが生まれた訳

北野さん
例えば今ガーナの村を電化するプロジェクトをやっているんだけど、それはJICAの支援をいただいています。最初は自分たちで行って、評価されだすと、外部のお金を調達出来るようになる、更にプロジェクトが大きくなるとビジネスになってくるので、インベスターの興味と理解を得る必要が出てきます。
ウルフ
ソーラーパネルを使ってアフリカでサッカーを放送することやガーナの電化など資料を拝見したのですが、地域の人々に感動を与えるということに強い感銘を受けました。研究を始めるときに、そういう姿を当初からイメージして始めるものなのでしょうか?
北野さん
世の中にインパクトを与えること、ゲームチェンジャーのようなことをしないと世の中は変わっていかないですよ。いろんな偶然が重なっています。例えばワールドカップを、ソーラーパネルを使ってアフリカで放映するというプロジェクト。これは、ソニーのFIFAのスポンサーチームの一人が、あるときアフリカの試合ではスタジアムがうまっていないと言い出したらしいのです。経済的な困難から、自国の代表の試合をワールドカップの会場まで、見に来ることができないのです。国内にいる人も、家にテレビもなく、国の代表が試合をしていながらそれを見る機会がない。だから、彼らに試合を見せてあげたい。そこからスタートしているんです。これがきっかけとなって、ソニーのCSR部門が、JICAやWHOと一緒に、サッカーをみながらHIV教育やワクチン接種を行うと言うコンセプトでのプロジェクトを開始しました。さらに、そこで、我々が持っているRenewable Energy(再生可能エネルギー)の技術を使えば面白いんじゃないかと思った訳です。こういういくつかの偶然の集大成のプロジェクトだったんです。

◆現地をみて、
 現地でサステナブルなビジネスの形を発想する

北野さん
現在、アフリカの村の電化、学校や病院の電化というプロジェクトを進めています。こうした技術は、導入の仕方が重要で、彼らの生活が豊かになり、発展できるということが重要です。そのためには、現地の人が導入された技術を使ってビジネスができることが必要。例えば、携帯の充電サービスを、実際に現地の人が行っています。そうすると需要が生まれ、ビジネスが生まれる。ソシオロジーと文化人類学、発達経済の考え方ですよね。どういう形で経済発展するのが最適なのか、サステイナブルな方法を導入しなければいけない。例えば、粗悪な乾電池が日本と同じ値段で売られている、いわゆる貧困ペナルティですよね、ガーナでは収入の3割が電気代になることもある。でもこういうことは現地を見ないとなかなか思いつかない。データを見ているだけではそういう発想には至らない。それだけ現地の人たちが電気代を払っているということは、そこにビジネスチャンスがあるわけです。こうしたプロジェクトでは、研究者が直接現地に赴きます。

◆アメリカ・中国・インドと競争しながら
 日本企業が入り込む意味

ウルフ
アフリカで開発を行うと中国やインドの企業との競争になるのでしょうか?
北野さん
そうかもしれない。ただ、それは何をやるかだろうね。我々がやりたいのはモノを売るのではなく、現地の人と一緒に発展できるということ。そのコンセプトに基づきチャレンジしているので、時間はかかると思います。現地、例えばガーナの北部の村に実際行ってみると、ヨーロッパの支援団体が多数来ていて、援助慣れしている村が結構ある。援助をもらってあげないと支援団体が困るということを、彼らは知っている。それは非常に歪んだ話になっていて、そういう村ではプロジェクトは難しいという結論に至るわけです。
橋本
そういう支援や援助の研究って、アメリカが秀でている印象があるのですが、あえて日本で行うことに特別な意味があるのでしょうか?
北野さん
我々が貢献できて、明確な意思があるからやっているだけで、国は関係ないんじゃないかな。全く何もないところから始まっているわけでもない。ソニーとWHOやJICAとの関係など今までのベースがあって、そこに付加価値を追加している。そんなこれまでの流れはありますよね。

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