Texted BY:12年度生 大阪大学大学院医学系研究科 冨田 耕平
Pictured BY:12年度生 大阪大学大学院工学研究科 井上 裕毅

 大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムの履修生は、超域の活動はもちろん、日々研究を進めている。むしろ、研究者としてのベースがあってはじめて超域での活動、汎用力の獲得が意味を持つ。そこで超域的研究では、超域生が行う独創的な最先端の研究を中心に、研究と超域との相互作用、超域研究者として彼らが描く未来についてインタビューしていく。
 第3弾となる今回は大阪大学大学院人間科学研究科に所属する超域1期生(2012年度生)の松村 悠子さんが離島でのエネルギーについての研究について熱く語ってくれた。彼女は現在博士後期課程(博士課程)1年である。

 

— エネルギー研究の現状はどんな感じなのでしょう?

 近年、省エネ、創エネに加えてエネルギー開発・とりわけ再生可能エネルギーの利用が注目されています。日本のエネルギーについての課題は、エネルギー自給率の低さ、化石燃料への依存度の高さ、災害などのリスクへの備えなどまだまだ多く、大都市だけでなくて、私が研究の焦点を当てている離島地域にも当てはまります。
 離島は大都市に比べて、自然環境が厳しくて、物資の輸送コストも高く、管理が難しいんです。天候によっては何日も船が欠航しますし、食品やガソリンとかいろんなものの輸送が止まります。もしそこで地震などさらなる問題が起こると、一切の物資が届かなくなる可能性も考えられます。
 常にそんなリスクと隣り合わせの離島では、例えばガソリンなど燃料が不足するようなトラブルが発生すると、発電が燃料に依存していたりすれば電力の供給が滞る可能性がありますし、それに続いて島内の移動や物資輸送も難しくなるかもしれない。そういうこともあって、エネルギーの現状に危機意識や不満が存在していますし、離島での再生可能エネルギーへの関心は高いといえます。しかし残念ながら、離島住民が再生可能エネルギーについて積極的な姿勢であったとしても、簡単には導入が進まないのが現状です。離島は他の地域と比較するとどうしても、情報や技術が届きにくく、外部の支援が得られにくい状況にあるからなんです。

— 具体的にはどんな研究をしているんですか?

 地域のエネルギー需要の高まりやそれに呼応した動きは、離島などの地域を問わず、また再生可能エネルギーに限った話ではなくて、あちこちで実践事例が報告されているんです。私は、このような実践は、自治体や市民が進めて、維持していくことが望ましいと思うのですが、必ずしもすべてが成功してきたわけではないんですね。私が進めている研究では、実際に地方で行われた実践事例を記述して、離島でのエネルギーに関する活動を進めるために必要な要素を明らかにすることを目的としています。事例の記述とは単に成功例を報告して、追従するように推奨するということではありません。その成否に関わらず分析して、その地域の固有性を尊重しつつ成功の要因も失敗の要因も抽出することがゴールなんです。

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— どうして離島の研究をしようと思ったのですか?

 まず、私自身が離島で生まれ育ったという背景が影響していますね。政治や経済の中心から離れた住民の視点をより実感してきたと思っています。ですので、地域住民のみなさんの考え方がどのように変化して、行動していくのかを、客観的に考えていきたいという気持ちが強くあります。単に自分の知的好奇心を満たすだけではなくて、客観的に見つめ、成功事例を一般化して、全国のさまざまな状況に直面する離島の活動にも活かしてもらえればいいなと思っています。離島という特殊な地域性を知っていますし、一緒に活動しながら客観的に考えることを基本としていますので、できる限り現場に足を運ぶことが大切だと思っています。
 バラ色に報道されることもある再生可能エネルギーですが、地域やその技術によってはエネルギー開発が望まれない場合もあります。社会的な要因として、コミュニティ全員が知り合いという場所ももちろんありますし、地域での人間関係が自治体の政策に影響を与え、エネルギー政策が変わることもあるんです。そんな状況でそとからひょいっと研究者がインタビューをしに来ても、本当の成功要因や課題を抽出できないんじゃないかと思うんです。離島のエネルギー政策は「研究者が来た、良くなった。」なんて単純なものではありません。成功事例を綺麗にまとめるのではなくて、島の人たちの努力とか葛藤をありのまま一緒に活動しながら記録して、発信する研究を進めていきたいと思っています。

— 超域の活動によってなにか研究は広がりましたか?

 私は大学院入学前、離島の研究をするためには地域に密着して、そこの住人の方々やスタッフとともに活動し続けることが最も重要であると考えていました。活動の範囲については、いつかは海外で活動する機会があればいいなとぼんやり考える程度で、実現する可能性は低いだろうなと思っていました。
 それが超域プログラムに参加したことで状況が大きく変わりましたね。例えば、私はプレ・インターンシップで欧州を訪問しました。再生エネルギー導入の成功例の視察とか研究者との意見交換をしようと思って行ったんです。ドイツって最先端の成功事例が報告されている地域があるんですけど、本当にそんなよくできた話があるのかってちょっと疑っていたのもあって、この目で確かめたかったんです。それから、別の機会にはフランスにも行って、日本のエネルギー問題とか離島の再生可能エネルギー問題について研究者と議論することができました。これらの活動を通して、実際の事例を現地に行ってこの目で見ることができたことや、私の研究や活動の重要性を指摘してもらえたことは自信につながりましたね。

— 海外の経験でなにか変わりましたか?

 以前だったら海外で活動するって敷居が高いなって感じていたんですが、実際海外で行動しないといけない場に直面すると、なんとか立ち回ることってできますし、いろんな人と交流していると実践しながら慣れてくるんだなって思いました。地域に密着して活動することが一番重要だという認識は変わっていないんですが、離島だけではなく視野を広げて、さらに自分の活動を発信することも必要だと強く思い始めましたね。地域にとってさらに良い活動をするためには、国内外の事例の成功の鍵となった要因を文献だけでなく実地調査を含めて検討しないといけないですし、自分が検討した国内の活動事例を発信して世界中の研究者からフィードバックを受け、研鑽することで、学術界にも調査地域にも貢献できると考えるようになりました。

— 超域の活動を通して成長したと感じる部分はありますか?

 超域の活動の中で日本マイクロソフト株式会社の樋口社長にお会いする機会があり、その際インタビューをさせて頂いた経験(マイクロソフト記事参照)は、研究でのスキルが活かされたと思いますし、今後の自分の人生にとっても非常に自信になるものになりましたね。
 マイクロソフト企画を主に進めていたのは工学系の学生だったんですけど、彼らはそれまでインタビューの経験があんまりなかったらしいんです。
 私の研究の核は、地域住民との直接的な対話にあると思っています。その中で地域住民が考えていることとか、感じていることをいかに引き出して、記述するかが肝要になってきます。研究で培ったインタビュー経験とスキルに期待されて企画のコアメンバーに招集されたんです。実際に、私のスキルがリーダーを構成する要素とは何かを社長から引き出すインタビューに応用されましたし、自分たちが本当に知りたいことを引き出すための質問を投げかけるきっかけを作ることができた、と他のメンバーに言ってもらえました。企画をともに実行したのが、この超域というメンバーであったからこそ、人と話をするスキルは「離島のエネルギー研究」に限らない汎用性を実感できました。

専門家であり実践家でありたい

 現在、私が調査に行くと、とてもありがたいことなんですが、地域活性のための人材として求められることがあるんです。でも、私自身これからもステップアップしていくためにも、今のところは一つの離島に落ち着く予定はないんですね。ありがたいことに「いま、このエネルギー政策を考えるにあたってあなたが必要なんです。」と言っていただけることもありますし、自分がやってきていることは何かの役に立つんだと実感できることもあり、これからもそういった活動をしていきたいと思っています。松村写真1-001