ぜひ今度は超域の授業でレクチャーをして頂きたいです!

 

  2012年12月 5日に行われた大阪大学未来戦略シンポジウム、その第二部にパネリストとして登壇して下さったのが、当時OECD東京センターの所長であった中谷好江さんである。第二部でディスカッションを行うにあたり、事前にインタビューをさせていただきたいとOECD東京センターにまで半ば押しかけた我々を快く受け入れて下さった上に、外交官としてのご経験から当時のお仕事の魅力、そして一人の母親としてのポリシーまで、「何でも」ストレートに話してくださる中谷さんにとにかく惹かれた。

  事前インタビューに参加し、本番のディスカッションに登壇させていただいた超域生は永野、瀧本、藤田の三人である。もったいない。他の超域生、学生そして多くの人にチャンスがあればと素直に思った。広報の先生方のお力をお借りして、再度インタビューをさせていただいたのが、今回の企画である。当初は超域プログラムでの講義を企画していたのだが、なんとこの8月から中谷さんはメキシコの日本大使館で勤務されるとのこと。日本を出発される直前の貴重な時間をいただき、急遽インタビューをさせていただけることになった。

  7月22日、某所に集まった超域生は国際公共政策学科の永野 満大橋本 奈保、人間科学研究科の瀧本 裕美子、理学研究科の藤田 朋美砂金 学、そして工学研究科の岩浅 達哉である。2時間にも及ぶインタビューではとてもこの紙面では紹介しきれないほどの貴重なお話を聞かせていただいた。抜粋という形にはなるが、永野・藤田・瀧本がインタビューを通して考えた事柄を交えながら、内容を報告させていただく。

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ー 中谷さんからの言葉を受けて考えた多くのこと ー

■12年度生 理学研究科 藤田 朋美

  外交官と聞くとおいしいもの食べて、遊んでいいよねって思われているかもしれないけど…そういって中谷さんが話してくださったのは”Trust(信用)”の重要性についてだった。

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  中谷さんはこれまで各国の外交官をはじめとしていろいろな国、立場のバックグラウンドの異なる人たちと接してこられた。最近のニュース、国や文化のこと、時にはワイン、芸術の話…それら多岐にわたる話題を含む会話の中で相手への興味や気遣い、思いやりを伝えていくためには幅広い知識が必要となる。中谷さんはそのことを知識の“引き出し”と表現されていた。会う相手に合わせて事前に情報を集め、準備することも必要だという。そういったことも含め、「気心の知れた関係を構築するためにコミュニケーション力が必要」とのことだ。Trustを得ることは簡単な事じゃない、それでも実績やコミュニケーションを大切に積み上げていく事で「この人なら信用できる」と思ってもらえる事が大切であると中谷さんは仰っていた。

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  コミュニケーションやTrustの重要性と言うものは中谷さんのような仕事をされている方にのみ限ったものではなく、誰にとっても言えることだろう。ただ、「国を背負っている」という緊張状態でTrustの構築を目指すということがどれほど難しい事であるか、今の私には想像もできない。誰もが知っているTrustという単語だがその持つ意味はあまりにも重い。

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  中谷さんのおっしゃるようにTrustを得る事は簡単なことではないが、いざ、なにかあったときに助けてくれる、相談できる相手というのは中谷さんの立場であっても、学生である私たちの立場にあっても、かわらずに大切な存在であり続けるのではないだろうか。まずは今、一緒に活動している超域イノベーションの仲間としっかりとした「気心知れた関係」を築き、5年のプログラムを終えても続いていければいいと思う。

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■12年度生 人間科学研究科 瀧本 裕美子

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naka-07  仕事か家庭か、二者択一を迫られて仕事を断念したり、あるいは両立させようとして大きなストレスを抱える女性は日本にたくさんいる。超域生の中にも将来仕事を続けていけるかを疑問に思う学生は少なからずいる。そこで、外交官という多忙な仕事と家庭との両立してこられた中谷さんに極意を伺った。返ってきた答えは意外にも、「私、職場で息抜きしているところがあるのよ」。

naka-08  2人のお子さんをお持ちの中谷さんは、まさにワーキングマザーの鏡とも言える。家事があることを苦に思うのではなく、むしろ仕事のスイッチを切り替えることができるきっかけとして捉え、ストレス解消につなげているそうだ。ただ、どうしても他の人と同量の仕事をこなすことはできないため、自分にできる範囲で自分の役割を果たすことが鍵となる。家庭のこともあって「これはできない」と思っても全否定するのではなく、「これはできないけれど、代わりに〇〇はできます」と提案すること、コミュニケーションを取ることが必要だと、くり返しおっしゃっていた。このコミュニケーション力は働く女性に特別求められるものではない。むしろどんな人にも、どんな状況においても当てはまるものである。
  責任ある仕事をまかされたものの、自分には「できない」と思ってしまう。
そんなときどうすればよいですか?と、普段の研究プロジェクトで不安を抱える学生からの質問に、中谷さんは「パラフレーズ」しながらコミュニケーションを取ることを提案する。

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  すると、相手の要求を理解できるようになるだけではなく、相手が何を想定しているのか、あるいはまだクリアになっていない部分が浮き彫りになってくると、中谷さんは教えてくれた。逆に、コミュニケーションの不足は、一つのプロジェクトの失敗を引き起こすに留まらず、長期的な信頼関係の構築を困難にするだろう。今回のお話を聞いて、このコミュニケーション力を普段の授業や研究の場で実践することができると強く感じた。誰かのちょっとした発言でもいい、「この人はなぜこういった言い方をしたのだろうか」と疑問を持ったなら自分の言葉で言い換えて(=パラフレーズ)質問してみる。この小さなコミュニケーションの積み重ねが、信頼を築く一歩なのだと思った。

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■12年度生 国際公共政策研究科 永野 満大

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  「もし中谷さんが超域生だったら、何をすると思いますか?」という学生からの質問に対して、中谷さんはしばらく考えてから、このように答えた。いま一度、この言葉の意味について考えてみる。中谷さんはインタビューの中で、繰り返し外交官にとっての教養の重要性について言及された。多くのステークホルダーを巻き込み、交渉を前に進めていくことが求められる外交の場では、どんな相手とでもコミュニケーションがとれるだけの幅広い教養が必要とされる。そのために「何でも見てやろう」という姿勢こそ、外交官にとって欠かせない資質なのだといえる。では超域生にとって、このような姿勢はどのような意味を持つのか。大学院での学びは多くの場合、体系化され細分化されている。それに本気で向き合うほどに、深く局所的なものになりがちである。超域プログラムは、こうした従来の大学院での学びの姿を変えようという試みである。我々が目指すのは、確かな専門力に加え、汎用力を併せ持つ人材である。そしてこの汎用力を支えるのは、他でもない教養だ。このことから何でも見てやろうという姿勢は、超域生が超域人材を目指す上での必要条件といえる。

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  中谷さんは、国際会議での経験を上記のように語る。そこでは周囲の様子を気にしながら発言の機会を伺っていても、永遠にそのような機会など巡ってこない。自分のメッセージを相手に伝えるためには、時には相手の話を遮ってでも、発言の機会を勝ち取っていかなければならない、というのだ。国際的な場において日本人があまり発言しない、というのはよく聞く話である。中谷さんはそのような日本の弱さを、肌で感じてこられた。超域プログラムは、越えるべき境域の一つに「国境」を掲げている。世界で働くことを希望する超域生にとって、そのような発信力は重要な力といえる。さらに中谷さんは、発信力を身につけるためには、適切な訓練が必要であると強調された。
  では我々は、どうすればそのような能力を身につけることができるのか。超域の講義の多くは、ディスカッションの機会が多く設けられている。これは座学が主体の大学院における一般的な講義との大きな違いといえる。超域生は、講義中のディスカッションにこれまで以上に積極的に参加することで、発信力を向上させることができるはずだ。

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ー 最後に ー

  メキシコへ赴任される直前のお忙しい中で時間を取って下さり、惜しげもなくご自身のご経験や大切にされていること、そして貴重なアドバイスを我々学生にして下さった中谷さんに大変感謝している。女性として、母として、そして国際関係のプロフェッショナルとして活躍されている中谷さんは、間違いなく我々にとってロールモデルである。第一線で挑戦し続けている方の姿を見ながら、自分たちの働き方、生き方そして社会への貢献の形を模索し続けていきたい。