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● 超域イノベーション・アクティビティ「超域イノベーション・自主企画型活動」

超超域人インタビュー
「これからの日本における超域人材の可能性」

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牧野益巳氏
日本マイクロソフト株式会社業務執行役員 社長室 室長 シチズンシップリード

 牧野益巳さんは、世界を代表するグローバルカンパニーであるMicrosoft社の日本法人、日本マイクロソフト株式会社の業務執行役員 社長室長として経営に携わり、またシチズンシップリードとして社会と企業の接点の現場を取り仕切っておられます。
 2012年11月2日に、日本マイクロソフト社と超域イノベーション博士課程プログラムとがジョイントで行った企画、超域履修生による日本マイクロソフト株式会社代表執行役社長、樋口泰行氏へのインタビュープロジェクトを実施しました。
 牧野さんは、本プロジェクトにおいて、マイクロソフト側の企画ならびに調整、Quality Controlを担当され、質の高いインタビュー企画となるようにプロジェクト・マネジメントのマイルストーンを随時設定し、企画担当の履修生に対して多大な教育的刺激を絶えず与えてくださった、この企画の最大の功労者であったと思います。
 プロジェクトから数ヶ月経ち、牧野さんとともに当時の様子を振り返りながら、超域生について、今後の日本の社会における「超域人材」の可能性について、率直に語っていただきました。

インタビュアー:平井 啓
大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室准教授&超域イノベーション博士課程プログラム部門幹事、プログラム担当者。
専門分野は健康心理学&行動医学。超域イノベーション博士課程プログラムにおいて広報ならびに評価に関する実務と「問題解決技法」「リサーチデザイン」「ライフスキル・トレーニング」などの授業を担当している。

※2013年6月27日、日本マイクロソフト株式会社本社(品川)にて実施。

平井:

昨年のマイクロソフト社訪問を振り返って、牧野さんが印象に残っていることをご紹介頂けますか?

牧野:

そうですね、時系列に全体を思い出しますと・・・。
やはり、最初の打ち合わせで、我が社に武居さんが来てくれたときのこと、とてもよく覚えていますよ。
我々はこのコラボレーションにおいて、アウトプットのクオリティについてかなり高いところを目指していましたから、それを彼に直接伝えたとき、彼は顔面蒼白でしたね。でも、そうなることは想像できました。
彼の考えていたアウトプットとのギャップは確実にあったでしょう。そこから、彼の葛藤が始まりましたよね。

平井:

そうですね、大学に帰ってきたあとの彼も、まだ顔面蒼白で(笑)初めての経験だったのだと思います。最初の打ち合わせが行われた、その環境から接する人から、何もかも全てが。

牧野:

でも私はその日から、最初の打ち合わせから2ヶ月足らずの間で、どのような状況までもってきてくださるか、とても楽しみにしていました。
結果、開催当日は、参加者みなさんがクオリティ、モチベーション共に、きちんとレベルを上げ、しかもそれぞれが同じレベルまで上げて臨んでくださって、我が社の樋口と共に、インタビューをとても良いクオリティに仕上げてくださったこと、鮮明に記憶に残っています。

平井:

私から見ても、よく頑張ってくれたと思います。私も振り返ってみると、我々教員も含めて、奮闘をし尽くした、怒涛の2ヶ月でしたね。

牧野:

そして、この企画の調整を行なってくれた竹内さんの超域、超域生への愛情を強く感じました。竹内さんのコミットメントはすごかった。あの方をここまで熱くさせるのですから、成果には期待していました。

平井:

竹内さんのような方と一緒に何かを作り上げる、というのも、超域生にとって新鮮だったようです。彼らの苦悩をどうやっていい方向に持って行こうか、随分工夫してくださっていました。

牧野:

私自身も、良い結果を残すにために、途中経過報告に対してレビューをタイミングよく入れるなど、いろいろなテクニックを使いました。
企画発案から実現まで2ヶ月足らず、という短期間で、クオリティを最大限に上げる、というのは簡単なことではないし、それはやはり共に作り上げるものですからね。
結果、私の発するメッセージや意図をうまく受け取ってくれた、という実感も得ましたし、とても良い企画になったと思います。
最初の話に戻りますが、最初に武居さんが犠牲になってくれたのがよかったのかもしれませんね(笑)

平井:

普通は学生時代にこういう経験はなかなかできませんよね。それも含めて、彼は自身の状況も、課せられた使命も、しっかりと受け止めてマネージしてくれました。

牧野:

予想外の出来事だったでしょうね、一種のショック療法というか(笑)まぁ、私たちの日常は予想外のことばかりですけどね(笑)

平井:

まず、彼は今回のこの企画の重要性、また、ともに作り上げるための超域全体が背負ったこの使命を、他の超域生にどう伝えればいいのか、その点において、自分でも想像していた以上に日々苦労したようです。

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牧野:

そうでしょうね、自身が感じたことを周囲にどう広めていくか、それは簡単なことではありません。武居さんの苦労はかなり大きかっただろうと思います。
人に与えるインパクト、影響力の重要さ、そのコンピテンシーの必要性を肌で感じてくれたのでは、と想像します。非常に重要な力です。

平井:

しばらくそれに苦しんでいましたね、自分と周囲の温度差というか。

牧野:

こればかりは、スキルというか、そういうものは誰も教えてくれないことですからね。研究室の中では経験できないことだろうな、と思います。実業の中、様々な価値観をもった人たちの中で揉まれながらでないと経験できません。
企業活動ではチームで成果を出すことが求められますから、ゴールの共有化や、それに向けて仲間のモチベーションをどうあげて、維持していくか、それこそ、リーダーシップが発揮されるところであり、身を持って学んでくれたでしょう。

平井:

結果として、参加した全員がビシッと合わせていたと思います。
武居さんを含めた最初の打ち合わせから1ヶ月経った頃でしょうか、牧野さんには、お忙しい中、超域イノベーション博士課程プログラムの教室までお越し頂き、参加する超域生と直接会って、レビューを行なって頂きましたね。
牧野さんから見て、彼らのレビュー時の印象と、インタビュー訪問時の印象は変わりましたか?

牧野:

もともと皆さん優秀だと思っていたので、さほど変わっていませんね。
企画のクオリティについていうと、企画の方向性と、開催当日に向けてレベルを合わせるスピート感の共有化ができていれば安心だと思っていました。武居さんが他の超域生をきちんと巻き込み、共有化できているか、がポイントだったわけで、皆さんの様子をとても楽しみに伺いました。そして皆さんにお会いし、レビューのときにいろいろとディスカッションを交わして、きちんと彼は役割を果たしてくれていることと、そのお陰で、我々が考えていたクオリティに7割ほどは近づいていると感じ、これで大丈夫、安心して当日に臨めると思いました。

平井:

なるほど。優秀と感じてくださったということですが、牧野さんのおっしゃる「優秀」とはどういうこと、どういう人物ですか?

牧野:

改めて尋ねられると、どう表現すればいいのか、難しいですね(笑)
例えば、マイクロソフトでは 全社員が共有すべき6 つの価値観(誠実で正直であること、オープンで相手に敬意を払うこと、積極的に大きな目標に向かってチャレンジできること、情熱をもって仕事に取り組めること、責任を持って自分の仕事を完遂できること、学ぶ意欲が強く自己研鑽に励めること)を設定していて、それに沿って採用を実施したり、評価をします。これはマイクロソフトに限った訳ではなく、社会で働く上で非常に大切な価値観だと思うのですが、超域のみなさん、そういった要素をそれぞれがそれなりに持っている印象で、非常にいいな、と思いました。また、それに社会的要素や人生経験が加われば、みなさんきっと伸びるだろうな、という実感もありました。
学生に対して私たちから見える「優秀さ」というのは、やはりこれからの「伸びしろ」をどれだけ感じさせてくれるか、のような気もしますね。

平井:

社会的要素や人生経験を積むには時間を要しますし、それに環境によってその経験の質も非常に左右するように思うのですが。

牧野:

そうですね、確かに、大学では教えられない経験かもしれません。そもそも、教えるということではなく、実学・実業のなかで自らが学び取るしかないのでは、と思います。なので、社会経験・人生経験を得るなど、学生にとってはしようがないことですが・・・。だからこそ、超域のようなこういう新しい取組が必要で、学生のうちに、超域のようなプログラムで様々な経験をすることが非常に重要だと感じています。

平井:

ありがとうございます。 学生にとっても、社会にとってもこのプログラムの重要性や必要性を高めることが、我々プログラム側の使命なのですが、日々ご助言・ご協力を頂いている様々な方々に「学生にとって最も成長できる年代である貴重なこの5年間、このプログラムで過ごすことに責任の重さを感じてほしい」と言われています。おっしゃるとおりで、超域生にとって、始まったばかりのこのプログラムに参加することは一種の賭けであり、彼らもそれなりに様々な不安を抱えながら、超域で提供している場や機会、活動に臨んでいるのも事実だと思います。
そんな中、昨年のインタビューで樋口社長に「たとえ用意された『疑似体験』であっても糧となる貴重な経験であり、必要な体験だ。」と仰って頂いたことが、彼らにとっても大きな希望となり、自分たちの今の立ち位置は間違っていなかった、と、明るい未来が見えたようです。
実際に、大学院で5年間過ごし、社会に出て実務を積まないままでいることに対し、企業側から見た率直なご意見をお聞かせ願えますか。

牧野:

いま、若者がとても苦労している時代だと思います。
昨年の統計でいうと、大卒者23万人もの若者が、就職が決まらない時代になりました。それに重ね、若者が育ちにくい環境にあるのかな、と思っています。
この状況は、教育側だけの問題ではなく、企業側にも問題があります。企業は短期収益を必要とし、短期間での業績、成果が求められる。昔は「かばんもち」のような期間があって、そういう立場が許されていて、成長の機会を与える余裕が社会全体にあったと思いますが、最近はどこを見渡しても、その余裕がなさそうですね。人を育てるには時間を要しますから、そういう意味でも、若者が、能力が育ちにくい世の中です。
このように、企業側でも「人材育成」ということに頭を悩ませているのですが、だからこそ、大学に期待しています。大学の中で、あらゆる領域、分野から、自由で「とんがった」人たちを作って世に送り出して欲しいのですが、この超域プログラムなら、それも出来そうですよね。

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平井:

では、若い年代でこそ、身に付けるべき能力とは?

牧野:

日本では、同調性が高いですよね。そして、それが良いとされている風潮もまだまだ根強いと思います。
ただ、いまの時代は特に、そういう風潮の中では新しい、ある意味「突拍子もない」アイデアはきっと生まれない。そういう自由なアイデアを出すべき年代の若者にこそ、今のうちに、他者や異質なものに対する好奇心や競争心を備えてほしいです。
海外でのベンチマークも必要だと思いますし、他流試合の機会をたくさん持つことで、様々な能力が育つと思います。

平井:

確かに、今の超域生の中でも、すでに同調性が高くなってきています。それぞれ自分の役割を作ってしまっている、という印象で、我々プログラム側も少し危機感を感じています。成長を止めてしまうのではないか、と。

牧野:

ただ、そういう風潮や習性は彼らや超域だけで変えられることではありません。社会全体でやるべきことです。
「日本」という立ち位置で考えた時、その持続的な成長は、彼らの世代に託さないといけないので、だからこそ、このようなプログラムは重要だと思っています。そしてこの超域こそ、教育を産官学連携、マルチセクターで共同して行える画期的な場ですよね。このような教育は産官学で協働してやるべきだと思いますし、超域でそういう力がどれだけ開発できるのかに大変興味がありますね。
また、先ほど申し上げた「伸びしろ」は、資格や英語力では計れません。もちろん、備えていたほうがよいのですが、やはり、価値観や人間力、aspirationalであることがこれからの勝負のポイントだと思います。
そして、そういう人材育成や教育の質は、大学だからこそ、高められると思いますよ。

平井:

確かに、大学だからこそやれることがあるはず、と思って我々も取り組んでいます。大学だからこそ、自由で「とんがった」人物をもっと生み出したいですね。

牧野:

私にとって「とんがった」人、というのは、いわばゲームチェンジャーのような人物を思い浮かべています。
世の中は不確かなものばかりで、ピンチの連続です。しかし、そのピンチをチャンスに変える、それを楽しめるゲームチェンジャーが、世の中にもっと増えたら素晴らしいな、と思います。そうであれば、日本は再びしなやかで強い国になるに違いありません。

平井:

「リスクを恐れない」ということでしょうか?

牧野:

企業では様々なトレーニングがありますが、それは「失敗しないため」のトレーニングだったりします。もしかしたら、そういうリスクを回避するような、失敗を避けるようなシステムによって、枠にはめてしまい、成長を阻んだり、チャレンジ精神を抑えたりしているのかもしれない、と感じることがあります。逆説的ではありますが。

平井:

確かに、いまは社会全体が、そういう価値観で動いているように感じますね。大学でも最近特に、リスクや失敗に対して敏感になってきている雰囲気です。バランスが必要ですね。

牧野:

大学でこそ出来ること、重要なことがありますよ。比較的安全な場所で、リスクを考えずにチャレンジしても良い、失敗しても良い、という環境ですよね。大学は、成長には不可欠な「失敗」の経験が安心して積める、非常に恵まれた環境だと思います。
企業に入ると、「失敗」は避けなければなりませんからね。

平井:

そうお聞きすると、産官学で教育を行う重要性をより一層感じます。もっと活発に相互交流できればいいですけどね。
さて、いままでいろいろなお話を伺いましたが、牧野さんは、「若者たちに『日本』の未来を託したい」という強い思いをお持ちだと感じました。
日本を代表する企業の第一線の立場から、これからの日本の未来をどのように見てらっしゃいますか。

牧野:

残念なことに、今の状況から見ると、どう考えてもこれからの日本は、いい方向に向かいそうにない、と思いがちですが、パラダイムが変わることで、いまとは少し違った、明るい未来、良い世の中になる可能性があると思います。
ただ、それには時間を要します。
産業革命には100年を要しましたよね。でも今はITが進んでいるので、それも30年に短縮できるかな、と思います。
また、非常に大切だと思っているのは「世代交代」です。私たちの世代から、いまの超域生の世代に変わること。私たちが達成できなかったことを、ちょうどいまの超域生の世代に託すことになるのです。
きちんと世代交代をするには、世の中の仕組みが変わる時間と同じだけの時間が必要です。

平井:

彼らはバトンを譲り受け、これから30年先に向かって走り始めた、ということですね。

牧野:

そうですね。 そして、皆さん、志高く「世の中に立つ」という強い思いを持っているに違いないと思うのですが、特に、私としては、「日本」のことを考え、「日本」のために、様々なイノベーションを起こしてほしいと思います。
「日本」という国をサスティナブルに、どのように発展させるのか。そもそも、国のための発展とはなにか。
是非、「日本を良くする」という壮大な目的、意識を持ってほしい、と思います。それだけの力を持っていると思います。
みんな海外に出たまま帰ってこない人も多いですが、一時期海外に出ても、それが「日本の発展のため」という軸を持ち続けてほしいです。
彼らは「明るい未来に向けての架け橋」になってくれると思います。皆さんの、これからの成長にますます期待しています。